『コンセッション方式』を認める改正水道法が成立、野党の「命の水が利益目的の企業に売り渡される」との主張は悪質なデマ

 12月6日に行われた衆院本会議で『コンセッション方式』を認める「改正水道法」が成立したことを NHK が報じています。

 水道事業が岐路に立っていた状態であり、民間の参入を認めることは時間の問題でした。維新の党を除く野党は「命の水が利益目的の企業に売り渡される」などと主張していますが、これは全くの誤りです。

 なぜなら、現行制度が「経営破綻」か「(実質的な)完全民営化」の二者択一だったからです。この点を無視した批判はあまりに悪質なものと言わざるを得ないでしょう。

 

 水道事業の経営の安定化に向け、民間の参入を促す改正水道法は、6日、衆議院本会議で採決が行われ、自民・公明両党、日本維新の会などの賛成多数で可決・成立しました。

 改正水道法は、水道事業の経営の安定化に向けて自治体の広域連携を進めることや水道施設を所有したまま、自治体が運営権を民間事業者に売却できる「コンセッション方式」を導入することなどが盛り込まれています。

 野党は改正水道法に反対していましたが、「水道事業の置かれている状況」を無視した反対論となっていました。

 現状維持では事業が立ち行かなることが見えているのですから、『与党案とは異なる抜本的な対策』を提示できない限り、単なる “抵抗勢力” に過ぎない状況だったのです。

 

赤字事業になることが確実視されている水道事業

 まず、水道事業の先行きは暗いものです。これは改正水道法が成立した12月6日に放送された NHK の時論公論でも「現状」として取り上げられていることです。

画像:水道事業の抱える問題点
  • 人口の減少による水道使用量の減少
    水道事業者は料金収入が減る
  • 水道管の更新時期が近づく
    インフラ維持のための再投資が必要

 要するに、人口の減少で「売上高(= 料金収入)が下がる」ことが予測される中、水道インフラの更新時期が近づいているため「支出(= インフラへの再投資)が求められる」という状況なのです。

 日本国内の現状は『東京一極集中』が起きており、地方では過疎化が進行しています。そうした地域の水道事業ほど「割に合わない状況」が顕著に現れていると言えるでしょう。

 

『コンセッション方式』を認める改正水道法が成立した理由

 水道事業を守るために他の公共事業(= 警察・消防・教員など)を犠牲にすることは非現実的です。なぜなら、予算には限度があるからです。

 その結果、「水道事業の赤字」に耐えられなくなった自治体が現行法で可能な『民間委託』を選択せざるを得なくなり、完全民営化による弊害を被る結果となっていたのです。今回の改正水道法はそうした問題を防ぐためのものなのです。

画像:改正水道法による主な変更点

 これまでは「地方自治体ですべての赤字を吸収するか」、「見切りを付けるか」の二者択一でした。そこに「赤字規模の削減」が見込める『コンセッション方式』という選択肢ができたのですから、要するに行政の活用次第なのです。

 

「コンセッション事業者の業務範囲」を見ずに批判する野党などの論調は大きな問題

 維新を除く野党は改正水道法に断固反対していますが、彼らが主張する「反対の根拠」はいずれも厚労省の水道課が発表した資料(PDF)で否定されています。

画像:コンセッション事業者の業務範囲

 「水道事業の休廃止」や「利用者との給水契約の見直し」はできないと明記されています。

 これは『コンセッション方式』の際に地方自治体も「水道事業の許可」を持ったままでいることが許可されるようになるため、民間事業者が市場の独占を背景にした利益追求型経営に歯止めがかけられることを意味しています。

 海外での失敗事例(= 水道事業の再公営化)は所有権と運営権を民間に渡したことが原因でした。日本では『運営権』を渡す際に『事業許可』を返上することが条件だったために、所有権は自治体が持っていても海外での失敗事例と同様の問題が起きていたのです。

 これらの問題に対する予防策が事前に制度として講じられているのですから、後はそれぞれの自治体が個々の事情に応じて水道事業をどうするのかを決定すれば良いと言えるでしょう。

 

『コンセッション方式』の抱える最大の問題は「災害などの突発的な事態からの回復」だろう

 最後に『コンセッション方式』を導入した場合、災害など突発的な事態への対処が大きな課題となるでしょう。これは「発生リスクが低く、経営的に事前の対応策を用意していく必要性が少ない」ことが理由です。

 「台風21号によるタンカーの連絡橋への衝突」で関空へのアクセスができなくなった際に、民間の運営会社と行政の間で少しゴタゴタが生じました。これと同じことが突発的なアクシデントの際に水道事業でも起きる可能性があるのです。

 「儲からない地域への給水を避けるために復旧工事を先送りにする」という行為も実際には可能なのです。「維持・修繕」と「災害復旧」は異なるのですから、災害が多い日本では『災害復旧』についての取り決めを事前に行っておく必要があるでしょう。

 そのためには『コンセッション方式』を採用する際にサービスの要求レベルを明記する SLA (サービス品質保証)を定めておくことです。

 水道局が提供する「サービス品質」を数値として明示できないのであれば、『安心』は単なる個人の感想と同じです。

 

 根拠を提示できない “安全神話” に基づく『安心』を保つために他の公共事業にしわ寄せを生じさせてまで、赤字の水道事業を維持することは難しいと言わざるを得ないのではないでしょうか。