バイオマス発電の抱える『稼働問題』も『燃料の輸入依存問題』も原因は「FIT の設計」にある

 日経新聞によりますと、“環境にやさしい” とされるバイオマス発電が壁に突き当たっているとのことです。

 「FIT の認定を受けた案件の8割以上が稼働していないこと」を理由としてあげていますが、FIT 案件は稼働するほど電気代が上がるのです。また、バイオマス燃料の輸入が進む原因も『FIT の設計』にある訳ですから、買取条件そのものを見直す必要があると言えるでしょう。

 

 植物などの生物資源を燃やして電気をつくるバイオマス発電がカベに突き当たっている。燃料の確保が難しく、政府の固定価格買い取り制度(FIT)の認定を受けた案件の8割以上が稼働していない。天候に左右されない安定した再生可能エネルギーとして期待がかかるバイオマス発電だが、人手不足もあって国内の森林資産を生かし切れず、燃料の輸入頼みに拍車がかかっている。

 バイオマス発電は「燃料を確保すること」が難しいのではなく、「損益分岐点を下回らない価格で燃料を調達し続けること」が難しいのです。

 現状は『FIT (= 全量固定買取制度)』に依存したビジネスモデルであり、制度上にも不備があります。この点に変更を加えることができなければ、市場で消費者に受け入れられることはないでしょう。

 

「2017年時点でのバイオマス発電の FIT 認定量」は「2030年度の想定水準」を超えている

 まず、記事を書いた日経新聞の坂本佳乃子記者が確認すべきは「バイオマス発電がどのぐらいの FIT 認定を受けているか」という点です。これは資源エネルギー庁が資料(PDF)で公表していますので、容易に確認することができるでしょう。

画像:急増したバイオマス発電のFIT認定量

 2017年3月末の時点でバイオマス発電の FIT 認定量は約1250万kW。2030年度時点でのバイオマス発電による発電容量は 600〜730 万kW なのですから、すでに2倍の容量に達しているのです。

 坂本記者は「認定を受けた8割以上のバイオマス発電施設が稼働していない」と記していますが、「これらのバイオマス発電施設が全て稼働すると年間1.5兆円分も電気代が上昇する」のです。この事実から目を背けた記事は問題があると言わざるを得ないでしょう。

 

日本の FIT によるバイオマス発電の買取価格が高い理由

 バイオマス発電の燃料は木屑など圧縮して作られる『木質ペレット』やパームヤシなどから作られる『PKS』です。これらの燃料が高額であるから、バイオマス発電は FIT の対象となっているのです。

 ただ、その中でも日本の買取価格は世界的に見て高額となっています。

  • 未利用木材(= 伐り捨て間伐材):32円/kWh
  • 一般木材:24円/kWh
  • 建築廃材(= リサイクル木材):13円/kWh

 ヨーロッパで一般木材から作られた『木質ペレット』は15円を下回る価格で買い取られているのですから、日本の買取価格水準は「割高」であることは否定できません。

 なぜ、このような高額な買取価格が設定されるかと言いますと、「日本には年間2000万立法メートルの未利用間伐材が発生している」からです。これは林野庁が公式に発表している数字であり、農水省が発表している木材の素材需要量とほぼ同じです。

 そのため、諸外国の買取価格よりも高値を設定する意味あるのです。

 

『外国産の木質ペレット』でも FIT の買取対象なのだから、コストの安い外国製燃料の輸入に拍車がかかるのは当たり前

 未利用木材で作られた『木質ペレット』に高い値段を付けられるのは止むを得ないことです。林道が整備され切っていないエリアから木材を運び出す必要があるため、一般木材や建築廃材と比較してコストが必要だからです。

 ただ、「森林の手入れが放置されることを防げる上、林業への安全対策が現状よりも進む」という利点があります。そのため、この分に対する値上げは世間一般に受け入れられる余地があると言えるでしょう。

 しかし、FIT の設計に問題があり、制度の歪みが表面化することになりました。

 日本のバイオマス発電に対する FIT は「燃料の材料」によって買取価格が決定する制度であり、「材料の生産国」に対する制約はありません。つまり、国産・外国産に関係なく「燃料の材料」によって買取価格が保証されているのです。

 これでは「値段の安い外国製の木質ペレット」の購入が促進される結果を招くことになるのは当然です。その結果、日本国内で放置されている未利用木材が敬遠されることを招いてしまうのですから、制度の是正に乗り出す必要があると言えるでしょう。

 

ドイツのように「付加条件」をバイオマス発電の FIT に設けるべきだ

 日本国内の木材が有効活用されることで二酸化炭素の排出が抑制されるから、FIT による割高な価格を支払うことが我慢できるのです。『外国産の木質ペレット』にまで、高価な買取価格を保証する必要性はありません。

 したがって、ドイツでの事例を参考に「付加条件」を設けた上で FIT による買取を実施すべきです。

 「日本国内の木材を使って造成された木質ペレットであることを証明できた場合に限り、現行の買取価格を維持。それ以外はヨーロッパ水準の13円/kWhとする」と変更すれば良いでしょう。

 日本国内に「木質ペレット造成工場」を作れば、『日本製の木質ペレット』を作ることは難しくありません。ただ、工場を稼働させるには「安価な電力」が必須であり、太陽光発電などの FIT で電気代の高騰を招いている時点で状況はかなり厳しいと言わざるを得ないはずです。

 

 問題が浮き彫りになっても速やかに変更できないのであれば、上限値を決めずに “オリンピック方式” で参加者を募る方法を変更すべきと言えるのではないでしょうか。