“モンスター市民” への対応の矢面に立たされる公務員を適切に守る仕組みが機能しなければ、野田市小4女児死亡事件は繰り返されるだろう

 千葉県野田市で小4の女児が死亡した事件で、教育委員会が父親からの要求に屈する形で女児が「父からいじめを受けている」と書かれたアンケートを渡していた問題で謝罪をしたと NHK が報じています。

 「アンケートを渡したこと」は失態ですが、現場での運用方法を改善案にすることは問題でしょう。なぜなら、“モンスター市民” への対応の矢面に立たされる公務員が守られる仕組みが確立・運用されていないからです。

 『人員』、『予算』、『権限』が与えられているかを確認し、どこまで対応することが可能なのかを明確にした上で再発防止策を策定しなけば悲劇が繰り返されることになるでしょう。

 

 千葉県野田市で小学4年生の女の子が死亡し、41歳の父親が傷害の疑いで逮捕された事件で、女の子が「父からいじめを受けている」と訴えた小学校のアンケートのコピーを、市の教育委員会が父親からの要求を受けて渡していた問題について、教育委員会の担当者は31日の会見で「配慮が足りないだけでは済まされない、取り返しのつかないことをしてしまった」と謝罪しました。

 “謝罪すべき相手” は亡くなっている訳ですから、教育委員会に批判が行くことは止むを得ないでしょう。

 ただ、「防ぐことができたのか」はシビアに判断しなければなりません。なぜなら、問題を未然に防ぐために必要な資源があったのか、適切に仕組みが運用されていたのかによって “落ち度” が変わってくるからです。

 

減点主義の役所を恫喝することで譲歩させるのはクレーマーの常套手段

 まず、問題となるのは「役所が恫喝に弱い」ということでしょう。人事の査定が『減点主義』であるため、“厄介事” を抱えた時点で「マイナス」と評価されてしまうことが根底にあります。

 つまり、「訴訟を匂わせた恫喝」や「時間外での団体交渉」といったクレーマーの常套手段が役所から譲歩を引き出すためには極めて有効な手段なのです。

 これらの手法は『威力業務妨害罪』に該当する違法行為なのですが、なぜ有効なのかと言いますと、役所が(法律に基づく形で)反撃して来ないからです。法律に則る形で役所が毅然と対処すれば、クレーマー側が痛い目を見るのですが、そうした行為には出ることはありません。

 その結果、「ゴネた者が勝ち」という事態が起きるのです。人事査定の変更は困難でも、クレーマー対応の変更は可能でしょう。ゴネ得が存在する現状は是正する必要があるはずです。

 

「人員・予算・権限を教育委員会が適切に保持していたのか」から確認を始めるべき

 千葉県野田市のケースでは対応に当たった教育委員会側の人間が「恐怖を覚え、精神的にも追い詰められた」のです。“孤立無援” の状態ではそうなるのは当然と言えるでしょう。

 「条例で開示できない」と説明しても、聞く耳を持たない相手には通用しません。逆に、「訴訟するぞ(= お前の人事査定がマイナスになるぞ)」と脅され続けた上、自らに何の落ち度もない状況で訴訟によってマイナス査定となる恐れもあるのです。

 批判の矢面に立たされる一方で、組織が守ってくれないのですから、対応する現場の人間が参ってしまうのは当然のことです。

 それを防ぐためには「人員・予算・権限を適切に与えることが重要」です。児童の支援や保護を適切に実施するのは相応の人員と予算が欠かせませんし、要求される仕事を遂行するための権限も不可欠です。

 トラブルが生じた際のサポート体制に不備がある状況では「火中の栗を拾うことを強いられているのと同じ」なのです。「クレームを付けられることが恥」というスタンスではなく、「クレーマーには法律を根拠に毅然とした対応をする」という仕組みが存在し、運用されていたのかを確認することから始めるべきと言えるでしょう。

 

クレーマーや毒親からの “言いがかり” への『対処ノウハウ』を持つ自治体と情報交換を積極的にすべきだ

 児童保護や家庭内暴力(= DV)に共通するのは「行政の適切な対応例が存在することが世間に知られていないこと」と言えるでしょう。世間で報じられるのは「行政に落ち度があったと見られる問題が発生した時」がほとんどで、行政の適切な対応で被害者が救済された事例は伝えられません。

 被害者保護が最優先なのですから、事例を逐一公表する必要はありません。ただ、実際に現場で対応にあたる自治体間での情報共有は定期的に行い、最善の対処方法を常に模索・改善し続けているべきだと言えるでしょう。

 クレーマーや毒親からの恫喝に屈しなかった事例での対応策は全国の自治体でノウハウが共有されているべきですし、場合によっては地元の弁護士などと連携して訴訟を起こすことも可能となる仕組みを構築・運用しておくべきです。

 そのための人員・予算・権限が教育委員会に適切な形で付与され、風通しの良い組織となっているかが鍵と言えるでしょう。「現場の運用体系を見直す」という対策は現場の負担を増やすだけの “先送り” を認識し、制度そのものを見直す声をあげるべきと言えるのではないでしょうか。