EU、独禁法違反を理由にシーメンスとアルストムの鉄道事業統合計画を承認せず

 日経新聞によりますと、世界的な鉄道車両メーカーであるシーメンス(ドイツ)とアルストム(フランス)が事業統合を計画していましたが、EU からの承認が得られなかったことで計画を白紙に戻すことになったとのことです。

 中国中車に対抗するための合併計画でしたが、承認が得られなかったことで経営計画を変更する必要が生じたと言えるでしょう。

 

 鉄道車両世界2位の独シーメンスと同3位の仏アルストムは6日、鉄道事業の統合計画を「白紙」に戻す方針を示した。欧州連合(EU)が同日、EU競争法(独占禁止法)に違反するとして両社の統合計画を却下したことに伴う措置。鉄道分野で世界首位の中国大手への対抗を目指した欧州の巨大企業の誕生プロジェクトは幻のまま終わることとなった。

 日本は鉄道が日常生活に結びついた国ですが、メーカーの規模は世界的ではありません。これは国土が狭く、必要とされる鉄道車両の総数が少ないからです。

 そのため、鉄道網でカバーできる広大な地域を持つアメリカ大陸(= ボンバルディア)やヨーロッパ(= シーメンス、アルストム)などに世界的な鉄道車両メーカーが存在していたのです。ただ、中国の “台頭” で市場に大きな変化が生じ、合併の動きが生じることになりました。

 

中国の経済成長と一帯一路

 まず、アメリカとほぼ同じ面積を持つ中国が経済成長を遂げ、人々の輸送ニーズが生まれました。人口がアメリカの約4倍なのですから、車よりも効率的に輸送できる鉄道網を整備する必要があるのは自明です。

 CIA のワールド・ファクトブックによりますと、中国の鉄道総延長は12万4000km (2017年)。日本は約 2万7300km となっていますので、その差は歴然と言えるでしょう。

 ただ、中国の鉄道総延長は2007年の時点では「8万km弱」でしたから、この10年で総延長を1.5倍に伸ばしているのです。つまり、それだけ中国国内における鉄道車両のニーズが高い状態であった上、一帯一路を掲げた外交政策で周辺国の鉄道網を抑える方針に出ています。

 その結果、発展途上国に分類される国での受注競争が生じており、それに勝つためにヨーロッパの鉄道メーカーが事業統合を模索する要因になっていたと言えるでしょう。

 

Google などの IT 企業に独禁法違反で文句を付けた手前、世界的な鉄道メーカーの事業統合は承認できるはずがない

 シーメンスとアルストムの思惑は「両社が市場で争って消耗することを避け、欧州域外での受注競争に勝つための経営体力を付ける」というものでしょう。

 鉄道網が整備され切っていないアジア(= ASEAN 諸国や南アジア)には大きな商機があることは事実です。ただ、『一帯一路』を掲げる中国が “国営企業の” 中国中車での参入を試みているため、厳しい勝負を強いられる状況にあるのです。

 そこで勝つには「事業統合をする」との判断は間違いではありません。しかし、それを許してしまうと、EU は『統合後の新会社』が EU 域内での独占的な立場を得ることになってしまいます。

 鉄道車両は「日々のメンテナンス」を行うことが必須ですし、耐用年数が経過した車両は新しいものに置き換える必要があるでしょう。その際に、独占的な立場を持った鉄道車両メーカーの存在は消費者が不利益を被る可能性が高くなると懸念されます。

 ましてや、欧州委員会は Google など大手 IT 企業が「独占禁止法に違反する」と文句を付け、制裁処分を科しているのです。「鉄道車両メーカーの事業統合は問題ない」との立場を採ることはまず不可能だと言えるでしょう。

 

日本の鉄道車両メーカーは海外展開を念頭に置いた “パッケージ受注” を目指す必要がある

 鉄道の総延長で劣る日本の場合は海外勢の土俵で戦うことは不利です。そのため、日本の鉄道ビジネスモデルをそのまま輸出する “一括パッケージ型” で売り込むことができるかがポイントになるでしょう。

 都市部に人口が集中するのはどの国にも言えること。都市の中心部と郊外を接続する鉄道網や沿線沿いの開発といった実績があるのですから、こうしたビジネスモデルを売り込むことができれば、新たな商機になることが期待できます。

 ただ、鉄道車両メーカーだけでできるビジネスはではありませんし、鉄道事業者だけでできるビジネスでもありません。

 また、売り込むためのセールス面に秀でたパートナーも必要になります。上手く取りまとめることができれば、継続的な収益を得続けることが見込めるのが鉄道ビジネスなのです。

 日本の鉄道ビジネスが海外でも商機が得られるような土壌を作っておくことも、重要になると言えるのではないでしょうか。