スキー・ノルディック世界選手権で血液ドーピングが発覚、対応が進んでいない現状が浮き彫りとなる

 スキー・ノルディック競技の世界選手権が開催されているオーストリアでドーピング・ネットワークの摘発が行われたところ、オーストリア代表選手が現行犯で逮捕される事態になったと AFP 通信が報じています。

画像:逮捕されたマックス・ハウケ(フォアアールベルク・オンラインより)

 手口としては以前から知られていたもので驚きはありません。ただ、アンチ・ドーピングが叫ばれている現在でも、この手口が通用してしまうことが問題と言えるでしょう。

 

 オーストリアの警察はドイツの当局と協力し、ドーピングネットワークを摘発するため、両国の計16か所を捜索。オーストリアスキー連盟(OSV)の関係者がオーストリア放送(ORF)に明かしたところによると、逮捕された選手のうち2人は同国クロスカントリースキー男子のドミニク・バルダウフ(Dominik Baldauf)とマックス・ハウケ(Max Hauke)だという。

 警察によると、他にカザフスタンの選手1人、エストニアの選手2人が逮捕された。警察の広報担当者は、逮捕された選手のうち一人は「行為の最中に捕まった」と明かし、記者会見で「腕に輸血装置をつけた状態で取り押さえれた」と述べた。

 逮捕された選手の競技は持久力が成績を大きく左右するノルディックのクロスカントリーです。そのため、過去に自転車ロードレースで使われた手口のドーピングが使われているのだと考えられます。

 “血液ドーピング” が現在も横行していることが明るみに出ることになったスキー・ノルディックのイメージが悪化することは避けられないと言えるでしょう。

 

血液ドーピング(= 輸血ドーピング)の手口

 血液ドーピングが横行する理由は「シンプルな手口で不正ができるから」という側面もあるからでしょう。具体的には以下の手順で行うことが可能です。

  1. 高地トレーニングを行い、血液中の赤血球が増えた状態にする
  2. 1の状態で採血を行い、血液を保存する
  3. 2の血液を輸血する
    • “自分の血液” を輸血するため、問題が起きる可能性はゼロに近い
    • 「赤血球が増加する」などの恩恵を受けることができる

 持久系の競技では「体内に酸素を効率的に運搬できるようにする」ための高地トレーニングが一般的です。マラソンや水泳で「日本代表の〇〇選手が高地トレーニングのため、XXに向けて出発しました」とのニュースを見たことがある人は大勢いるはずです。

 高地トレーニングの主目的は「血液中の赤血球を増やすこと」であり、“赤血球が増えた状態” を意図的に作り出すことが目的です。

 ここまで合法行為なのですが、“赤血球が増えた状態の血液” を採血するとグレーになります。輸血目的で採血すると、アウトと言えるでしょう。なぜなら、輸血した時点で “血液ドーピング” になってしまうからです。

 

「選手の状態を把握するための採血検査」が一般化したことによる弊害でもある

 血液ドーピングで必要となるのは「採血と輸血のノウハウ」と「血液の保存方法」です。“大掛かり” である必要はないため、今後も起きると言えるでしょう。

 まず、採血のタイミングは選手が自然と知ってしまっています。近年では選手の血液を採取し、疲労の状態などを正確に把握する流れができています。

 つまり、高地トレーニングを行った場合、どのタイミングで採血すれば最も効果的であるかの情報を全選手に与えているも同然なのです。「赤血球が多く、乳酸など疲労物質が少ない状態」がデータで明らかなのですから、これを悪用する人物が出てきても不思議ではないからです。

 適切な採血時期を知っていれば、残すは「保存方法」と「輸血」です。看護師の知識と機材があればできる不正行為である上、禁止薬物を使っていなれば発覚するケースも稀でしょう。その認識を大会主催者側が持つ必要があるのです。

 

バイオロジカルパスポートの導入で、血液中の成分変化を監視するしか具体策がないのでは?

 ドーピングが発覚するのは「禁止薬物の成分が検出された」というものがほとんどでしょう。しかし、それを隠す “マスキング物質” の使用が横行したことで不正を見破ることが困難になっていることが実情なのです。

 そのため、現実的に採ることができる対応策は「バイオロジカルパスポートを導入し、対象選手の血液成分に不自然な変化がないかを監視する」しかないと状況です。

 赤血球数などは高地トレーニングで変化しますが、ドーピングをした時と比較して急激な上昇は起きないと考えられます。こうした細かい違いを確認し、不正に手を染めている選手をあぶり出す地道な作業が求められていると言えるでしょう。

 ノルディック競技そのものが日本ではマイナー競技であるため、日本でのニュースバリューは低いと思われます。ですが、ドーピングはスポーツの価値を損ねる行為である以上、競技に関係なく不正に手を染めた選手への批判をする必要があると言えるのではないでしょうか。