「公道での自動運転テスト」に極めて消極的な国交省が『自動運転』に向けた旗振りをしても海外勢に置いていかれるだけ

 日経新聞によりますと、国交省が自動運転車用の安全システムに向けた基準を作るとのことです。

 ただ、内容が「ドライバーの目の動きや体の状態を監視する」というもので、有人運転時のサポートに留まっています。海外勢は『ドライバーが無人の自動運転』に注力しており、この分野での実証実験が日本国内でほとんどできていない状況は良くないと言わざるを得ないでしょう。

 

 国土交通省は自動運転車に搭載する安全システムの基準を作る。乗っている人の目の動きや体の状態を監視する装置の搭載を自動車メーカーに義務付ける方針だ。条件付きで自動運転が可能な「レベル3」と「レベル4」の実用化に向け、安全基準を明確にする。国内メーカーは装置の開発が進めやすくなる。利用者の自動運転車への信頼を高め、普及につなげる。

 国交省が定めようとしている基準は「ドライバーの居眠り運転」や「ドライバーの体調急変」に対して大きな効果が見込めるでしょう。

 しかし、ニュースで取り上げられるようになった「高齢ドライバーによる操作ミス」や「高速道路などでの逆走」などの事故原因に対しては無力です。なぜなら、これらの事故を起こしたドライバーは「目の動き」や「体の状態」に異常性は見られないからです。

 したがって、安全システムの基準を設けるだけでは不十分なのです。

 

『ドライバー不要の自動運転技術』の開発・実証実験を国内で行えるよう “特区” を設けるべきだ

 自動運転に対するトレンドは「ドライバー不在(= 無人)の自動運転技術」です。これまでは自動車という『ハード面』で競争が起きていましたが、これからは自動運転という『ソフト面』での競争が本格化すると予想されています。

 これは過去にコンピューター産業で起きた “地殻変動” が自動車産業でも起きると考えられているためです。

 コンピューター・サーバーは『ハード』に強みを持っていた IBM が君臨していましたが、現在では『ソフト』に強みを持つ IT 企業の独壇場です。これはプログラミング言語が増加し、コンピューターの操作性が容易になったことで様々なアイデアが具現化されたことも理由の1つです。

 自動車の自動運転技術もプログラミングで実現ができるのですから、自動車の操作性を上手くプログラミングで書けた企業(や個人)が圧倒的な存在感を発揮することになるでしょう。

 そのためには実証実験を行える環境が必要不可欠なのですが、国交省は『無人の自動運転技術』に対する開発環境を用意することに極めて消極的です。これでは “開発環境を持った国” の企業や組織に遅れを取ることになるため、日系企業の競争力が落ちることは必然と言わざるを得ないでしょう。

 

高齢ドライバーの「逆走」や「運転操作ミス」による事故を防ぐには『自動運転』が現実的な有効策

 『ドライバー不要の自動運転技術』には価値があります。高齢ドライバーが起因する事故を防ぎ、物流業界などの人手不足にも対応できる能力を持っているからです。

 国交省が基準を設けようとしている安全システムは「ドライバーの異常を検知する」という考えが根底にあります。居眠りや体調の急変は検知できますが、走行中の車両をどう操作するかはドライバー次第という問題もあるのです。

 また、逆走や運転操作ミスによる暴走といった(主に高齢ドライバーによる)事故については検知が極めて難しく、現行ルールのままでは同様の事故は起き続けるでしょう。

 なぜなら、表面的な状態を検知して注意を促す安全システムですから、判断能力や操作能力に問題を抱えた運転手の技量までカバーできないからです。そうしたドライバーによる事故を減らすためには『自動運転』に置き換えることが最も有効です。

 そのための開発環境を作ることすら消極的な国交省の姿勢も、高齢ドライバーによる事故を誘発する遠因を作っていると言えるでしょう。

 

「運転手不要」というメリットは過疎地ほど享受できる

 自動運転によって「運転手不要」となれば、様々なメリットを享受できるようになります。

  • 長距離・定期便の効率化
  • 車社会の郊外などで自動運転による公共交通機関の維持

 まずは物流業界でのドライバー不足が改善されます。長距離・定期便の運行に当たっているドライバーを自動運転に置き換えることで、人員不足は解消へと向かうでしょう。

 該当業務に当たっているドライバーは「ラスト1キロの近距離」や「臨時便」の運行という形でニーズは残る訳ですから、大きな反発が起きることは少ないでしょう。人材が不足している状況では効率化は避けられないと言えるはずです。

 また、自動運転が現実のものとなれば、山間部などで収益性の悪い公共交通機関の維持にも貢献が期待できます。これは「運転手の人件費」を削減できるため、限度が下がるという恩恵があるからです。

 この場合、ガソリン代も問題として浮上します。ただ、「水素」や「電気」という動力源が実用化できれば、燃料費はガソリンよりも安価にできる可能性があるため、並行する形での開発を促すことが重要になると言えるでしょう。

 

 開発環境に適した特区を制定すれば、大手自動車メーカーなどの研究員を現地に呼び込むことができるのです。「地方創生」という実例となるだけに国交省や政治がどのように舵取りをするのかが大きなポイントと言えるのではないでしょうか。