「液体のりが造血幹細胞の培養に効果的」との研究成果が発表、より注目すべきは「しらみ潰しで効果的な物質を特定した研究姿勢」だ

 朝日新聞によりますと、東大とスタンフォード大などの研究チームが「白血病などの治療で用いられる造血幹細胞の大量培養に成功した」との研究成果を発表したとのことです。

 「液体のりで高額な培養液よりも大量に培養できた」というインパクトに目を奪われがちですが、「培養液の成分をしらみ潰しに検討した」という研究姿勢によりスポットを当てるべきでしょう。なぜなら、膨大な数のトライ&エラーによって「液体のりが効果的」という結果が導き出されたからです。

 

 白血病の治療で重要な細胞を大量に培養することに、東京大と米スタンフォード大などのチームがマウスで成功した。これまでは高価な培養液でもほとんど増やせなかったのが、市販の液体のりの成分で培養できたという。

 (中略)

 東京大の山崎聡特任准教授らは、培養液の成分などをしらみつぶしに検討。その一つであるポリビニルアルコール(PVA)で培養したところ、幹細胞を数百倍にできたという。マウスに移植し、白血球などが実際に作られることも確認した。

 PVAは洗濯のりや液体のりの主成分。山崎さんは実際、コンビニの液体のりでも培養できることを確認した。共著者で理化学研究所で細胞バンクを手がける中村幸夫室長は「結果を疑うほど驚いた。研究者はみんな目からウロコではないか」と話した。

 

「高価な培養液」ではなく、「液体のりの主成分」が効果的だったことは驚き

 白血病の治療で重要になるのは造血幹細胞です。白血球や赤血球に変われる造血幹細胞の重要度は大きいのですが、培養が難しく、骨髄移植や臍帯血(さいたいけつ)移植に頼っていることが現状でした。

 今回、東京大とスタンフォード大などのチームが「液体のりの主成分であるポリ・ビニル・アルコール(= PVA)で造血幹細胞の培養が可能」との研究成果を発表しました。

 「PVA を使って培養した造血幹細胞から白血球などが作られることをマウスに実験で確認した」とのことですから、非常に大きな成果だと言えるでしょう。なぜなら、骨髄移植や臍帯血(さいたいけつ)移植への依存度を従来より引き下げる見込みがあるからです。

 これにより、ドナー側の負担が軽減されることになります。その結果、患者には効果的な治療が施される恩恵が行き届くことになるのですから、良い進歩になると言えるでしょう。

 

「培養液として効果がある物質」の特定を片っ端から試すことができた研究環境が大きいな要因

 「液体のり」という “インパクト” が大きいため、目を奪われがちになりますが、東大やスタンフォード大の研究環境は見落とすべきではないでしょう。

 なぜなら、「培養液の成分などをしらみ潰しに検討」と研究チームが認めているからです。つまり、片っ端から『総当たり方式』で「培養液として効果がある物質が存在しないか」と挑戦し続けたのです。

 「成果が出るかは分からない」という状況で研究費を使い続けられたことが大きかったと言えるでしょう。

 効率化という観点では「しらみ潰しに試す」という行為は歓迎されません。失敗するだけコストが高くなりますし、経営者やマネジメント層からの風当たりが強くなる傾向があるからです。

 「どうすれば研究結果を得られるか」が最初から分かっていれば、苦労はありません。それが分からないから、しらみ潰しに「使えるか使えないか」を確認していくしか効果的な方法がない状況なのです。この点に対する忍耐力を出資者は持つ必要があると言えるでしょう。

 

 マウスで効果が得られたということは「臨床試験に向けて前進があった」と言って問題ないでしょう。実用化が待ち遠しいですし、医療分野以外での研究・開発の環境でも大量のトライ&エラーが行われていることは世間に知られるべきと言えるのではないでしょうか。