香港の身柄引き渡し条例、当局が審議延期を発表するも民主派団体は「撤回」を要求しデモ活動を継続する

 香港政府が容疑者の身柄を中国本土に引き渡すことを可能にする条例案の審議を延期にしたと NHK が報じています。

 ただ、「延期」にしただけでは無意味と言えるでしょう。なぜなら、ほとぼりが冷めた時点で条例案を「再可決」すれば、当局が狙った結果を得ることができるからです。当局と民主派の駆け引きは続くことになると言えるでしょう。

 

 香港で容疑者の身柄を中国本土にも引き渡せるようにする条例の改正案について香港政府は議会での審議を延期することを決めましたが、民主派の団体は、あくまでも改正案の撤回を求めて大規模なデモを行っています。

 

現状は「当局が議会での審議を延期した」だけ

 香港の議会に「容疑者の身柄を中国当局に引き渡すことを可能にする条例案」が出されていたのですが、これがきっかけで民主派など住民らによる大規模なデモ活動が発生しました。そのため、当局は「審議を延期」としたのです。

 これは「審議が延期」となっているだけで、「条例案は提出されたまま」です。つまり、反対運動が沈静化した段階で「提出された条例案を可決すること」は選択肢として十分にあり得ることです。

 この手法を認識しているから、民主化運動を行う反対派はデモ活動を止める考えがないのでしょう。そのため、香港政府と民主化運動を行う人々との間で駆け引きが続くことになると考えられます。

 

香港政府が板挟みになることは確定的

 今回の件で、香港政府が板挟みになることは確定的です。トップである行政長官は「中国からの承認」がなければ、長官選挙に出馬することはできません。

 したがって、中国の意向に沿った条例案を通過させることができない行政長官に対する “風当たり” は強くなるはずです。そのため、自身の保身という点でも「条例案を通過させる機会を虎視眈々と狙っていることは間違いない」と言えるでしょう。

 一方で、条例案に反対する民主化運動を行うデモ隊からの “突き上げ” が強くなることも自明です。

 当局がデモ活動に対して暴力的な取り締まりをする様子も伝えられており、「民主主義」や「リベラル」を掲げる人々が批判をしなければならない行為を多数行われている有様です。知らぬ存ぜぬで押し通せるレベルではないだけに難しい舵取りを迫られていると言えるでしょう。

 

中国・北京の出方が大きな鍵を握る

 今後の焦点は「中国・北京の出方」になるでしょう。一国二制度から一体化に舵を切っており、「現状維持で済ます」とは考えられないからです。

 ただ、香港当局に強硬姿勢を要求しにくい状況であることも事実です。と言うのも習近平総書記が6月下旬に大阪で行われる G20 でメンツを潰されるリスクがあるためです。

 ホスト国の日本は “腹黒い外交戦術” を苦手としていますが、それを得意とする国も存在します。「人権派」や「リベラル」として名前を世界中に売り込むための “絶好の舞台” を日本が用意し、“格好のネタ” を中国が提供してくれるのなら、それに便乗する国や政治家が現れるという認識を持つ必要があります。

 そのため、香港当局は(当面の間は)「延期」を選択し、北京の顔色を伺う状況が続くと考えられます。しかし、あくまでも「延期」ですから、状況が整えば「成立を目指して審議入り」を決断することになるでしょう。

 

 中国は好調な国内市場を背景に、長期戦に持ち込むことが濃厚です。しかし、米中貿易戦争が激化すれば、その目論みが崩れることにもなると考えられます。しばらくの間は流動的な状態が続くことになると言えるのではないでしょうか。