なでしこジャパンは16強で敗退、VAR に対する認識不足がサッカー有識者の中にも蔓延していることは深刻な事態

 日本時間6月26日の早朝に行われた女子W杯で日本代表はオランダ代表に 1-2 で敗れ、決勝トーナメント1回戦で敗退したと NHK が報じています。

 後半終了間際に熊谷選手がペナルティーエリア内でハンドをしたことで PK となったことが決定打となったのですが、その際に VAR (= ビデオ・アシスタント・レフリー)の介入に対する誤解がサッカー有識者の中にあることは問題と言えるでしょう。

 

 サッカー女子の日本代表「なでしこジャパン」は女子ワールドカップフランス大会の決勝トーナメント1回戦でオランダに1対2で敗れ、準々決勝進出はなりませんでした。

 (中略)

 終了間際にオランダの攻撃を受けると、キャプテンの熊谷紗希選手がペナルティーエリアでハンドのファウルをとられ、ペナルティーキックで決勝点を奪われました。

 ペナルティーエリア内でハンドの反則を取られることは珍しくありません。むしろ、ハンドを取られた後に VAR の介入で誤った認識を流すことの方が問題です。

 なぜなら、適切なフィードバックの妨げとなってしまうからです。では、具体的に問題点を指摘することにしましょう。

 

熊谷選手のプレーが迂闊であり、主審の判断にミスは何ら存在しない

 まず、最初に指摘する必要があるのは「熊谷選手のプレーが迂闊すぎる」という点です。

画像:熊谷選手がハンドを取られた場面

 ペナルティーエリア内でのシュートブロックをした際に広げた腕にボールが当たれば、PK を宣告されるのは当然です。「意図的ではない」との弁解は通用しませんし、ノーファールの判定が下される方が問題です。

  1. シュートが熊谷選手の左腕に当たったため、主審は即座に PK を宣告
  2. VAR ルームと交信
  3. ピッチ上での映像確認はせず、熊谷選手にイエローカードを提示

 主審の判定は適切なものです。また、あの立ち位置から PK の判定をできないなら、審判員としてのレベルを疑わざるを得ない状況です。

 しかし、間違った認識で審判の対応に疑問を呈しているサッカーメディアがあるのですから、問題として指摘する必要があるでしょう。

 

『ゲキサカ』の VAR に対する認識がおかしい

 問題点を指摘する必要があるのは『ゲキサカ』というサッカーメディアです。Yahoo! に掲載された記事の以下の部分に認識ミスがあります。

 このプレーに関して主審はビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)でも確認していた。ただし確認後に熊谷にはイエローカードが出されたが、本来であればイエローカードはVARの対象外のため、イエローカードを出すのであれば、先に出しておく必要がある場面だった。

 VAR が介入する可能性があるのは以下の4項目です。

  1. 得点時に反則が存在したか
  2. PK 判定が正しいか
  3. 一発退場に値するプレーか
  4. 警告や退場の判定で人違いが発生していないか

 熊谷選手のプレーで PK が宣告されたのですから、VAR は「PK 判定の是非」で発動したと考えている人がほとんどでしょう。しかし、これが「間違い」なのです。

 実際に主審が VAR で確認していたのは「PK 判定」と「一発退場」の2点です。前者は「主審が迷わずペナルティースポットを指差したため」に重要度は低く、後者の「熊谷選手のハンドがなければシュートがゴールしていたのではないか」との確認をしていたことが濃厚です。

 これは「熊谷選手が決定機をハンドの反則で阻止」している可能性があり、これは一発退場に値するプレーだからです。(もし、主審が PK の判定そのものに疑念を持っていたなら、自ら映像確認を行っているはずだが、該当の VAR ではしていない)

 ただ、VAR ルームからの返答は「シュートが決まっていたとは言い切れない」との内容だったために、イエローカードの提示で済んだと考えるべきでしょう。

 したがって、ハンドの宣告から VAR を利用し、熊谷選手にカードが提示されるまで主審の動きに問題となる場面は何もないのです。

 

「VAR を要求すべき」と発言した解説者もルールに対する認識不足

 ただ、『ゲキサカ』よりも致命的な “失言” をしたのは中継を担当した Jsports で解説を務めた佐々木則夫氏(前なでしこジャパン監督)です。

 主審がハンドによる PK を宣告した後に「今の PK なの? VAR を要求すべき」と発言したからです。この発言の何が問題かと言いますと、監督や選手は『ビデオ判定』を求めることができないとルールに定められているからです。

 レビューを要求するシグナル(= プロ野球の監督がリクエストをする際のジェスチャー)をした場合はイエローカードが提示されると定義されています。

 主将である熊谷選手が VAR を要求していれば、要求したことで1枚目のイエローカードが提示され、VAR で決定機阻止による2枚目のイエローカードが出されていて退場となっていたことでしょう。

 前代表監督による解説としてはあまりに粗末な内容です。サッカーのちょっと詳しい人が “ノリ” で解説しているのではないのですから、今回の発言によるマイナス面は重く受け止める必要があるでしょう。

 

 雑な解説や論説は競技の裾野を拡大していく上で足を引っ張る原因になると言えるのではないでしょうか。