与田監督から「お前が打たなきゃ誰が打つは不適切」との指摘を球団経由で受けた応援団が応援歌の使用を自粛して波紋が広がる

 中日スポーツによりますと、中日ドラゴンズの応援団がチャンステーマとして使用している『サウスポー』の歌詞に好ましくない表現があるとの指摘が与田監督からあり、応援歌の使用が自粛されることになったとのことです。

 「お前」という表現が「選手に対する敬意を欠いている(= 失礼)」というのが与田監督の主張です。1つの意見として認められるべき内容ですが、「ファンとの関係性」という点で間違いなく尾を引くことになるでしょう。

 

 中日は1日までに中日ドラゴンズ応援団に試合中に使用する応援歌「サウスポー」について、好ましくない表現があるとして歌詞の変更を要請し、1日に同応援団が同曲の当面の使用を自粛することを公式サイトなどで発表した。好ましくない表現は「お前が打たなきゃ誰が打つ」という部分で、多くの子どもたちも応援する中、「お前」という表現はどうかと与田監督も疑問視し、その旨を球団を通じて応援団に伝えていた。同応援団側は歌詞の変更が難しいとして、使用の自粛を決断したとみられる。

 

『身内(= 仲間)』や『対等な関係』にある者同士で「お前」という表現は許容範囲内

 「お前」という表現に「与田監督が主張するネガティブな意味合い」が含まれていることは事実です。

 その典型的はケースは「目上の者に対して『お前』という呼びかけをした場合」でしょう。これは「非常に失礼」であり、相手を侮辱していることと同じだからです。

 しかし、そうではないケースも存在します。例えば、仲間内であったり、対等な関係にある者同士の間で『お前』という表現を使う場合です。チームメイト間での「お前が打たなきゃ誰が打つ」という発言は全く問題にならないと考えられるからです。

 今回の応援歌使用自粛で波紋が予想以上に広がっている理由は「ファンをどう位置付けているのか」という問題が絡んでいるからです。

 場合によっては「応援歌『サウスポー』の使用自粛」だけでは済まなくなるだけに、騒動の発端を作った与田監督が責任を持って対処する必要が生じたと言わざるを得ないでしょう。

 

「ファンが選手をお前呼ばわりするのは問題」と言ったに等しい

 仲間内で『お前』と呼ぶことは問題になりませんが、中日ドラゴンズでは「ファンが選手を応援する際に『お前』という表現を使うことは好ましくない」との与田監督による意向が反映されました。

 これは「ファンは仲間ではない」と発言したことと同じです。つまり、選手を含む球団とファンとの間には明確な線引きがあるのだから、「(相応の)敬意を示せ」と要求したことと変わりないのです。

 「たかが選手が」と発言して大バッシングを浴びた某球団オーナーがいましたが、今回の与田監督の発言は「たかがファンが」と述べたことと同じであるとの認識を持つ必要があります。

 また、“問題視されていなかった表現” を「問題」と断定したのですから、周囲に延焼することは不可避です。

 『燃えよドラゴンズ!』の歌詞にある「燕落として大男 息の根止めて 勝ち進め」の部分は「お前」とは比較にならないほど不適切です。もちろん、与田監督は該当部分に対する懸念を球団側に伝えていることでしょう。もし怠っているなら、論外だと言わざるを得ないでしょう。

 

広島カープには「お前」という表現を使ったチャンステーマも、公認タオルも存在する

 一方でドラゴンズと真逆の対応をしている球団も存在します。それは広島東洋カープです。

 『極チャンス』というカープの得点機に使用される応援歌には「おっ!・まっ!・えっ!・がっ!・決めろ!」と『お前』という表現が思いっきり入っています。それどころか、球団公認タオルとして販売もされています。

画像:カープの「お前が決めろ!」タオル

 選手を侮辱する内容ではないのなら、『お前』という表現に目くじらを立てる必要はないと言えるでしょう。

 要するに、中日・与田監督の要望は「時期」も「内容」も「方法」も間違いだったのです。「応援歌の内容」を不適切と感じたなら、オープン戦やオールスター期間中といった「変更に時間の取れるタイミング」で球団側から先に意見表明をできる状態を整えておくべきでした。

 応援団から「球団からの要望があった」と発表された後に、球団から「変更を要望した理由は次のとおりです」とのプレスリリースを速やかに出していれば、波紋はここまで大きくはならなかったでしょう。それができずに火に油を注ぐ結果となったに過ぎません。

 

 “パンドラの箱” が開く原因を作ったのは与田監督です。「その意図はなかった」との弁解はすでに手遅れですし、現時点で発生している騒動を収束させる責務が与田監督にはあると見なされるのは止むを得ないでしょう。

 ドラゴンズが球団としての危機管理を適切に行い、問題を上手く収束させることができるかが注目点になると言えるのではないでしょうか。