厚労省が派遣社員に年功序列の導入を義務付け、「同一労働・同一賃金」に逆行する

 日経新聞によりますと、厚生労働省が派遣社員の「勤続年数や能力」に応じた賃金を支払うよう派遣会社に義務づけるとのことです。

 『同一労働・同一賃金』を念頭に置いた措置とのことですが、これは真逆の効果をもたらすことになるでしょう。なぜなら、“年功賃金” は『同一労働・同一賃金』に最も反する賃金体系だからです。

 

 厚生労働省は派遣社員に勤務年数や能力に応じた賃金を支払うよう人材派遣会社に義務づける。同じ業務で3年の経験を積んで業務内容が変われば、初年度より賃金を3割上げるなど具体的な指針をまとめた。「同一労働同一賃金」の制度が2020年4月に始まるのに合わせ、正社員との賃金差を縮小する。

 

派遣労働は「職種による同一労働・同一賃金」が基本

 まず、派遣労働は「職種による同一労働・同一労働」が大原則です。労働者自身が持つ専門性や能力によって賃金が評価されるべきであり、『ハケンの品格』というドラマで描かれている状況でなければなりません。

 ドラマで篠原涼子さんが演じた主人公・大前春子のような “仕事ができる人材” は契約更新ごとに賃金水準が高まることでしょう。なぜなら、昨今は人手不足で売り手市場(= 労働者側が優位)であり、争奪戦が繰り広げられることになるからです。

 しかし、ここに「年功加算」を加えてしまうと、『同一労働・同一賃金』の原則が崩れてしまいます。

 同じ労働に従事しているにもかかわらず、年数(≒ 年齢)の違いによって賃金に差が生じるからです。これは『同一労働・同一賃金』に反する方針と言わざるを得ないでしょう。

 

「毎年 10% 前後の能力アップを示すことができない派遣社員」は3年でクビになる

 もし、厚労省の「3年の経験で賃金が3割増」が導入されると、派遣社員の大部分は3年でクビになるでしょう。「企業側が3割増の条件で更新するメリットのある派遣社員」は極めて少数と考えられるからです。

 企業が「賃金3割増」をオファーするのは「初年度よりも 30% 超の貢献度が “確実に” 見込める派遣社員だけ」です。

 『初年度より 25% の成長を見せた派遣社員』に対して、「賃金3割増での更新」をオファーする企業はほとんどないでしょう。なぜなら、3年契約を一旦満了させた上で「契約内容を1から交渉」という形を採ることが経営的に合理的だからです。

 つまり、企業が「 “3割増のオファー” を出した方が得」と考える限られた派遣社員以外は3年でクビになるのです。超が付くほど優秀ではないが、支払った分以上の仕事ができる派遣社員であっても切られるという事態が起きる可能性があるのです。

 厚労省が掲げた『同一労働・同一賃金』を達成するために行われる政策が真逆では話にならないと言えるでしょう。

 

「どれだけポンコツでも年功のある正社員の賃金を下げられないこと」が正社員と派遣社員の賃金差になっているのでは?

 厚労省は「正社員と派遣社員の賃金差」を懸念しているようですが、これは評価体系が異なっていることが根本にあります。

 正社員の賃金の下限は「新入社員時」です。これは年功序列が色濃く現れた賃金体系を導入している企業が多く、勤続年数が多い社員は能力に関係なく賃金水準が高くなります。また、解雇や減給もないため、賃金は高止まる傾向にあります。

 一方で派遣社員の賃金の下限は「最低賃金」です。これは労働者が持つ専門性や能力が “その時代のニーズ” による値段が付けられるため、求められている専門性や能力を保持していない場合は「最低賃金に近い価格」で労働に従事せざるを得なくなるからです。

 正社員なら、「求められている専門性や能力を持っていなくても年功による高収入を得られること」がアンフェアなのです。

 ここにメスを入れなければ、『同一労働・同一賃金』を達成することは不可能と言えるでしょう。労働市場の改革に逆行する方針を掲げて遂行する厚労省の姿勢は問題視されるべきと言えるのではないでしょうか。