合流式下水道がメインの東京で、五輪の遠泳プレ大会に参加した選手から「水がトイレ臭い」との不満が出るのは当たり前

 読売新聞によりますと、東京五輪の水泳・オープンウォータースイミングのプレ大会に参加した選手から「水がトイレ臭かった」と不満の声が出ているとのことです。

 原因は東京都が『合流式下水道』を採用しているからでしょう。大雨が降った際に合流式では “汚水混じりの雨水” が未処理のまま河川に輩出されます。汚水は「糞尿などが含まれた下水」がメインであり、それが海水で薄められただけの競技会場がトイレ臭くなるのは当然のことと言えるでしょう。

 

 東京五輪に向けた水泳・オープンウォータースイミングのテスト大会が11日、東京・お台場海浜公園で行われた。

 約1時間の競技を終えた後、参加した選手からは「水がトイレ臭かった」と、水質を不安視する声が上がった。大会組織委員会の担当者は水質について「現時点で基準はクリアしていると認識している。本番へ向け更に検討を重ねたい」と話した。水質を巡っては、東京都と組織委が「水中スクリーン」を設置して細菌の流入を防ぐなど対策を実施。今回は1枚だったが、本番では3枚のスクリーンを設置するという。

 

「試合会場の)水がトイレ臭い理由は “汚水混じりの雨水” が河川を通して流れ込んでいるから

 東京湾の水質がトイレ臭くなる理由は「 “汚水混じりの雨水” が未処理のまま河川を通して流れ込む可能性がある下水道方式が採用されているから」です。東京23区のほとんどは『合流式下水道』が採用されています。

 汚水と雨水を同じ一本の下水道管で流す合流式下水道では、一定量以上の雨が降った時に、汚水混じりの雨水が放流されます。

 なお、東京23区の排除方式は下図のとおりです。(ピンクが『合流式』が採用されている地域)

画像:東京都の下水道網

 「汚水」と「雨水」が別々の下水道で処理される『分流式』が採用されているのは「足立区の北部」、「世田谷区の南西部」、「埋め立てが行われた湾岸地区」の3地区です。それ以外の地域はほぼ『合流式』なのです。

 これでは都心にゲリラ豪雨が降った時点で「汚水混じりの雨水が未処理のまま東京湾に流れ込む」のです。お台場で行われたオープンウォータースイミングの試合会場がトイレ臭く感じるのは当然の結果と言えるでしょう。

 

「早くから下水道の整備が進んでいた都市部ほど『合流式下水道』が採用されている」という皮肉

 なぜ、財政力のある東京都が『合流式下水道』という環境に優れているとは言えない排除方式を採用しているかと言いますと、「早くから下水道をしてしまったから」です。

 下水道の整備は国交省案件ですが、『分流式下水道』の整備が法律で義務付けられたのは昭和45年(= 1970年)のことです。そのため、「都市部の浸水防除」と「生活環境の改善」が喫緊の課題だった都市部ほど施工が容易な『合流式』が多いという状況にあったのです。

画像:合流式と分流式の違い

 しかし、それ以前に敷設された下水道を『分流式』で再敷設するには膨大なコストが必要となります。耐用年数が来る前に積極的な再敷設を行うことは困難と言わざるを得ないでしょう。

 なぜなら、下水道整備は “公共事業” だからです。マスコミが主導する『公共事業バッシング』は熾烈なものですし、その中で『分流式下水道への置き換え』を積極的に推進することは不可能です。

 その結果が「東京五輪のプレ大会に参加した選手からの不満」ですから、皮肉と言えるでしょう。

 

『分流式』が採用されていても、悪質な地方自治体が存在すれば水質は悪化する

 『合流式下水道』では排水容量を超える降雨が発生した場合、超過分を河川に排出せざるを得ません。これをやらないと、街中に汚水が溢れる結果を招いてしまうからです。

 そのため、汚水と雨水を別系統で処理する『分流式』の方が河川の水質に良い影響を与えることは明らかと言えるでしょう。

 ただ、『分流式』の導入が法律で強制されていても、それを無視した自治体があったことが発覚しています。それは以前に仙台市で問題となったケースです。

  • 仙台市で『分流式』の割合は 80% 超
  • 『分流式下水道の地中管』に “ひび割れ” などで雨水が侵入が常態化
  • 雨天時に『分流式下水道』の容量オーバーが発生したため、秘密裏に『緊急避難管』を設置
  • 『緊急避難管』を使い、未処理の汚水を『雨水管』に流す

 “秘密の管” を用意する行政があるのですから、『分流式』の導入を促進するだけでは不十分です。仙台市のケースでは「雨水の流入箇所を特定し、配管を置き換えるための予算執行」が求められていました。

 このような出費に対する理解が世間の多数派とならない限り、水質汚染の問題が大きく改善に向かうことは難しいと言えるでしょう。

 

 「大都市近郊の海岸線」が「郊外の海岸線」と比較して汚いのには下水処理による理由が大きいのです。“大都市の近くでの海水浴” をしたいなら、大規模な公共事業(= 都市部の下水道網刷新)は不可避です。

 絵になるとの理由で「お台場での開催」となったツケを選手が払うことになったケースと言えるのではないでしょうか。