「韓国の GSOMIA 破棄」を伝える日本メディア、火器管制レーダー照射問題を忘れて「日韓の対立は安全保障分野にも波及」と報じる

 NHK が「韓国が日本との軍事情報包括保護協定(= GSOMIA)を破棄することを決定した」と報じています。このニュースで「両国の対立が安全保障分野にも波及」との文言が使われていますが、これはミスリードと言えるでしょう。

画像:韓国のGSOMIA破棄を報じるNHK

 なぜなら、韓国海軍による自衛隊機による火器管制レーダー照射問題で安全保障分野での対立は既に生じていたからです。この点に触れないマスコミは事実を伝える責務を怠っていると批判されても止むを得ないでしょう。

 

 日本と韓国の軍事情報包括保護協定=「GSOMIA」について、韓国政府は、延長せずに破棄することを決めたと発表しました。これについて外交ルートを通じて日本政府に通告するとしていて、日韓の対立は安全保障分野にも波及することになります。

 (中略)

 日本政府が輸出管理の優遇対象国から韓国を除外する決定をしたことについて、「明確な根拠を示さなかった」と指摘し、「両国の安全保障協力の環境に重大な変化をもたらした」としています。

 そのうえで「このような状況で安全保障上、敏感な軍事情報の交流を目的に締結した協定を続けることは、わが国の国益に合致しないと判断した」として、「GSOMIA」を延長せずに破棄することを決めたと発表しました。

 

GSOMIA は「日韓両国が軍事的な歩調を合わせている」とのメッセージ性を持つ “象徴的な協定”

 日本と韓国はアメリカとは安全保障上の条約を締結しています。しかし、日本と韓国の間にはありません。平時は『日=米=韓』で問題ありませんが、中国の海洋進出など地域情勢が緊迫した場合には好ましいとは言えません。

 だから、GSOMIA を締結することで “擬似的な日米韓の三国同盟” を形成していたのです。

 GSOMIA は「両国間で得た軍事情報を第三国に漏洩しない」という秘密保護協定です。日韓の二国間で機密情報をやり取りする際は重要な仕組みですが、アメリカを仲介することで情報交換をすることは可能です。

 日本は「GSOMIA を通して韓国からの直情報を得ること」の重要度は低く、韓国が「GSOMIA の破棄」を通告したことに驚くことはあっても、頭を抱えることはないと言えるでしょう。

 

アメリカは「日米韓の歩調は合っている」と主張したいが、火器管制レーダー照射問題で日韓関係は良くない

 アメリカには「日米韓の歩調は合っている」と(中国などに)示したいため、GSOMIA が維持・存続されることは重要です。したがって、韓国は「GSOMIA を延長するが必要な情報は出さず、得た情報は漏洩させる」という『面従腹背』に出るべきでした。

 この場合はアメリカの “虎の尾” を踏むことは回避できます。しかし、「日本の要求を見返りも得ずに応じるのか」と国内世論から突き上げを受ける可能性があります。

 だから、ムン・ジェイン大統領は『日本の要求』を突っぱねることで “強い韓国” を国内向けにアピールすることを選択したのでしょう。これは韓国の国内問題であり、日本が関与することはできません。

 また、日本と韓国の間には韓国海軍の駆逐艦による自衛隊・哨戒機に対する火器管制レーダー照射問題が横たわったままです。

 哨戒機に攻撃用レーダーを照射した非を認めない国と良好な関係を保つことは不可能ですし、そのような国を全面的に信用することは国防を危険にさらす行為と言わざるを得ないでしょう。

 

韓国は「(GSOMIA 締結前の)2016年以前の状態に戻っただけ」との認識

 韓国が GSOMIA を破棄した理由は「2016年以前の状態に戻ったに過ぎないとの認識があるから」でしょう。なぜなら、その頃までは韓国有利の状況だったからです。

  • 韓国からの要望に日本が “配慮” を示していた
  • 日韓が対立した際はアメリカが韓国の肩を持ち、日本に譲歩させていた

 しかし、GSOMIA が締結された2016年以降は日米両国が韓国に厳しい対応を採ることが多くなりました。

 したがって、「2016年以前の状態に戻ったところで韓国が被るマイナス面は少ない」との考えが韓国国内から出ることは自然と言えるでしょう。

 

 メディアは「日韓の対立が安全保障分野にも波及した」と報じていますが、火器管制レーダー照射問題があったのですから、正しくは「安全保障分野における不信感を払拭できなくした」が適切です。

 「防衛ラインが『38度線』から『対馬海峡』に下がること」への懸念は火器管制レーダー照射問題が起きた時点でマスコミが指摘しておくべき点です。韓国との良好な関係を維持するために譲歩ばかりを迫って来たことの弊害が別ルートで示されたに過ぎないと言えるのではないでしょうか。