トルコがテロ組織認定されているクルド人勢力に対して軍事侵攻するのは当たり前、混乱の原因は『トルコの敵勢力』と手を組んだオバマ政権である

 トルコが隣国シリアにあるクルド人の支配地域に軍事侵攻したと NHK が報じています。これは「起こり得る事態」と言えるでしょう。

 なぜなら、トルコは『シリアのクルド人勢力』を国際テロ組織である『クルディスタン労働者党(PKK)』と同様に警戒していたからです。にも関わらず、アメリカ・オバマ政権はIS掃討作戦の地上戦要員としてクルド人勢力を抜擢しました。

 トルコにとって「ISの再隆興」は問題ではないため、足並みの乱れは続くことになるでしょう。

 

 トルコ軍は、隣国シリア北部のクルド人勢力の支配地域に軍事侵攻してから3日目となった11日も国境周辺の村の制圧を進めていて、トルコ国防省は、今回の作戦でクルド人勢力側の300人以上を殺害したと発表しました。

 (中略)

 今回の軍事作戦についてヨーロッパ各国はトルコへの非難を強め、作戦の停止を求めていて、アメリカのトランプ大統領も軍事作戦を黙認したと批判されるなか仲介に乗り出す構えを見せています。

 しかし、トルコのエルドアン大統領は強硬な姿勢を崩さず作戦を続行する方針で事態打開の見通しはたっていません。

 

シリア騒乱の原因を作ったのはオバマ前大統領

 シリアが内戦に陥った原因は「オバマ政権の対応」が大きな部分を占めています。『アラブの春』が中東にまで波及した際、オバマ大統領(当時)は「アサドは去らなければならない」と啖呵を切り、シリア反政府勢力を後押ししました。

 しかし、直接的な介入を敬遠したため、内戦は一進一退となり、その間隙を縫ってISが勢力を伸長するという事態を招いてしまったのです。それに加え、ISの対応に “トルコが敵視する勢力” に協力を要請したことも痛手となりました。

画像:ISを巡る周辺国などの関係図

 自国に攻撃を仕掛けてくる国際テロ組織に強行姿勢を貫くのは当たり前の対応でしょう。そのため、トルコが強気な態度を崩していないのです。

 

トルコと欧米で「危険視する勢力」の順番が異なることが足並みが乱れる要因

 トルコと欧米の足並みが乱れる大きな理由は「危険視する勢力の序列が異なるから」でしょう。なぜなら、以下のようになっていると考えられるからです。

  • トルコ
    1. クルディスタン労働者党(PKK)
      → トルコにテロ攻撃を仕掛けて来る組織
    2. PYD、YPG (= シリア国内のクルド人勢力)
      → PKK から分離したシリア国内の勢力
    3. IS
      → トルコを攻撃対象にしていないため静観
  • 欧米(= EU やアメリカ)
    1. IS
      → ホームグロウン・テロの温床
    2. クルド人の武装勢力
      → 欧米は攻撃対象外のため、危険度は低

 (キリスト教の価値観が根付く)欧米諸国はISを危険視しています。これは自国内にいるイスラム教徒が原理主義に傾倒した結果、ホームグロウンのテロリストが発生する “火種” と化すことを懸念しているからです。

 一方でトルコは事情が異なります。トルコはイスラム教(の世俗派)の国で、ISに対して神経を尖らせるまでには至っていません。ISはトルコを攻撃対象にはしていないため、トルコは自国に対してテロ攻撃を仕掛けてくる PKK などのクルド人勢力を危険視しているのです。

 自国の国境沿いを中心に勢力を伸ばす『親テロ組織』に配慮を示すことなど、「国防上の理由から断じて容認することはできない」というトルコの立場を甘く見ていると事態は悪化の一途を辿ることになるでしょう。

 

「アサド政権がISをも封じ込める」という解決策を容認しないなら、“民主主義” を訴える勢力が地上部隊を派兵すべき

 シリア問題が混沌とした大きな要因は「民主主義を訴える欧米諸国が中途半端に介入し、アサド政権の勢力圏を縮小させたから」です。これによって権力の空白地帯が発生し、ISのようなイスラム原理主義勢力の支配地域が生まれる “下地” を作ってしまったのです。

 ISが勢力を持ち続けて困るのはキリスト教の価値観が根付く欧米諸国です。だから、「ISを掃討したい」という強い動機があるのです。しかし、地上部隊を送り込むと大きな損害を受けるため、どの国も派兵には消極的です。

 そのため、欧米諸国の価値観に近い『クルド人勢力』を味方と位置付け、IS掃討作戦における傭兵として利用しているのです。

 「ISを掃討すること」が目的なら、アサド政権の勢力を復活させても目標を達成することは可能です。ただ、「アサド政権は民主主義の敵」と認定してしまった手前、方針転換を図ることはできないのでしょう。

 だから、欧米諸国からの支援は中途半端となる一方、中東地域の国家には疑念を抱かせるという悪循環が進行することになるのです。自らが蒔いた種が育っただけであり、それを擁護することは難しいと言わざるを得ません。

 

 “オバマが始めた戦争” の1つである『シリアの内戦』を収束させる必要があるのは「欧米のリベラル」です。トルコの軍事侵攻ばかりを非難するのではなく、その火種を仕込んで逃げている勢力にも責任を取らせる必要があると言えるのではないでしょうか。