近畿大学が鰻の人工孵化に成功、完全養殖の実現に向けて前進する

 時事通信によりますと、クロマグロの完全養殖に成功した近畿大学がニホンウナギの人工孵化に成功したとのことです。

 過去には国立研究開発法人の水産研究・教育機構が成功していましたが、コスト面で商業化は暗礁に乗り上げている状態でした。養殖のビジネスが確立されている「シラスウナギ」にまで順調に生育することができるかが大きな注目点と言えるでしょう。

 

 クロマグロの完全養殖に世界で初めて成功した近畿大学水産研究所が1日、絶滅が危惧されるニホンウナギの人工ふ化に成功したと発表した。飼育期間は最長50日に達し、体長約2センチまで成長したという。今後は完全養殖と量産を目指す。

 通常の養殖ウナギから採取した卵と精子を人工授精させてできた受精卵が9~10月にふ化した。現在、1000尾以上が餌を食べて成長しているという。体長約5~6センチの稚魚「シラスウナギ」を経て親になり、次の世代を産卵、ふ化する完全養殖のサイクルができるまで、3年程度かかる見通し。

 

『水産研究・教育機構』が鰻の完全養殖で抱えていた問題

 鰻の人工稚魚作りは NHK が2019年7月に記事にしており、その中で「国の取り組み」と「抱えている課題」に言及されています。

画像:鰻の人工孵化が抱える問題点
  1. 人工孵化
    • 水産研究・教育機構が過去に成功
    • 近畿大学も成功
  2. 生育
    • 生存率は 4% (国の事例)
    • 鰻の稚魚は餌の選り好みが激しい上、水質に敏感
    • 「稚魚が好む餌」と「水質を保てる水槽」の開発が必須
  3. 出荷時
    • シラスウナギ(体長: 5〜6cm)なら全国で養殖可
    • 生産コスト(1尾あたり5400円)の引き下げも課題

 鰻の養殖は「 “天然のシラスウナギ” を養殖する」という形態であり、完全養殖をする際の課題は「人工的に孵化した鰻の稚魚をシラスウナギにまで(商業化なコストで)育て上げることができるか」でした。

 近畿大学も人工孵化に成功し、体長 2cm まで到達したとのことですから、完全養殖に向けた期待が持てると言えるでしょう。

 

完全養殖のプロセスを確立させた後、作業の自動化などでコスト削減を図ることになるだろう

 近畿大学で人工孵化に成功した鰻の稚魚は「餌を食べている」とのことですから、シラスウナギにまで成長すると考えられます。その段階にまで持ち込むことができれば、次は商業化・量産化を念頭に置くことで生育のプロセスを改良することが重要になります。

 「餌やり」を自動化にすることができれば、コストを削減することに繋がります。また、餌の中身を改善することで「食欲」や「水質管理」の観点で効果が期待できます。

 こうした部分で成果を出すには「完全養殖のプロセス」を確立させることが先決です。成功例が存在すれば、量産化やコスト削減など目的に沿った形で改善策を探すことができるからです。

 まずはプロセスの成功例を作り出せるかが大きな注目点になると思われます。

 

完全養殖の技術確立によって天然鰻の絶滅が阻止されるなら、歓迎すべきこと

 天然物の鰻はシラスウナギの乱獲などで絶滅の危機に瀕しつつある状況です。これが「養殖技術の確立」で食い止められるなら、大きな出来事だと言えるでしょう。

 養殖の鰻と言っても「天然のシラスウナギを畜養する形態」であるため、根本部分は天然の水産資源に頼っているからです。

 水産研究・教育機構や近畿大学が取り組んでいるのは「養殖物のシラスウナギを市場に提供すること」ですから、この実用化に成功することで市場に大きな影響を与えることは確実です。

 そのために乗り越えなければならないハードルは複数残っていると考えられますが、商業化に向けて前進している成果を発表できることは歓迎すべきことでしょう。クロマグロに続く代名詞を近畿大学が手にすることができるのかが注目点と言えるのではないでしょうか。