NTT が独自電力網の整備に乗り出すと日経が報道、『蓄電池の大容量化と低コスト化』が前提に

 日経新聞によりますと、NTT が独自電力網の整備に乗り出すとのことです。

 自社ビルを活用し、蓄電池に溜めた電力を供給するビジネスモデルとのことです。また、自社電源を整備してバックアップ需要の取り組みをするとのことですが、そのためには現状よりも大容量・低コストの蓄電池が必要不可欠と言えるでしょう。

 

 NTTは独自の電力網の整備に乗り出す。2020年度から、全国約7300カ所ある自社ビルを活用し、蓄電池にためた電力を病院や工場などに供給する。自社の電源も整備し停電時のバックアップの需要を取り込む。一連の投資額は6000億円規模になる見通し。日本で電力大手以外が自前で電力網を整備する動きは珍しく、大手が独占していた配電網に風穴が開くことになる。

 

経産省の要望に忖度した NTT による独自電力網の整備計画

 「NTT が独自電力網の整備に乗り出す」との報道ですが、経産省が新規参入を希望するビジネスモデルと言えます。

 発送電分離が始まると、送電網は送電会社が一手に担うことになり、この分野での競争は起きなくなります。そのため、“既存の電力網に依存しない形で電力供給が行えるビジネスモデル” が確立することは「(経産省にとって)渡りに船」と言えるでしょう。

 ただ、日経新聞が報じた内容は確定ではありません。NTT が公式に発表したものではないですし、日本国政府が発行済株式の3分の1を持つ特殊会社です。

 また、NTT の年間売上高は10兆円を超えていますし、独自電力網を整備するために総額で6000億円規模の資金を投じる余裕は十分にあります。だから、配電事業でも競争を引き起こしたい経産省の意向に忖度したビジネスモデルがメディアに報じられている可能性も念頭に置いていく必要があるでしょう。

 

「蓄電池に溜めるコスト」が上乗せされるため、極めて安価な発電による電力の確保が不可避

 独自の電力網を整備すると言っても、「送電網を(NTT が新たに)整備する」というモデルではないと思われます。なぜなら、送電塔を建てるための用地や送電線を管理する技術者を新たに用意する必要が生じるからです。

 したがって、蓄電池を自社ビルの敷地内などに設置して活用することで『既存の送電網』に頼らなくても電力供給が継続できる体系の構築を考えていると思われます。

 この場合は「蓄電池に溜めるコスト」が上乗せされるため、蓄電用の電力を安価に調達することが重要になります。

 停電時は単価が高くても、消費者は電力を購入してくれることでしょう。しかし、通常時に割高な電気料金を受認する事業者は稀です。災害時のバックアップ電源を安価に獲得できれば、操業時のニーズは満たせるのですから、大幅な切り替えが起きる可能性は低いと考えられるからです。

 

自前の電力網を維持しながら採算を取ることができるのかが注目点

 NTT の資金力があれば、独自の電力網を構築することは容易でしょう。ただ、構築した『自前の電力網』を採算が取れる形で運用し続けることができるかが注目点になります。

 「大手電力会社から購入するよりも高額なコスト」を費やし続ける経営的な合理性はありませんし、事業として営むのであれば採算性を保つことが重要です。

 対象とする顧客は “既存の大手電力会社のサービス水準” に慣れているため、それを上回る水準でのサービスを提供することが求められます。電力自由化で停電が発生しやすくなる状況になることが予想されるにしても、順調な伸びを記録することは簡単ではないと思われます。

 電力小売市場に参入した新電力は「停電かと思ったら大手電力会社に問い合わせて」と “逃げ” を打つことが可能です。しかし、独自の電力網を構築したなら、供給責任は自分たちが最後まで負わなければなりません。

 公共インフラである『通信』に携わる NTT はサービス供給の最終責任がどれだけ重たいものであるかは日々の業務で痛感していることでしょう。したがって、日経新聞が経産省の太鼓持ちの形で報じたようなビジネス形態で NTT が電力事業に参入する可能性は高くないと言えるのではないでしょうか。