大学入学共通テストの記述式問題で採点業者が “試験実施前から” 問題と正答例を知っていることは「不正の温床」にしかならない

 NHK によりますと、英語の民間試験が延期された『大学入学共通テスト』で、記述式問題が導入される国語と数学の問題と正答例を採点業者が事前に把握している状態であることが明らかになったとのことです。

 これは「不正の温床になり得る制度」と言わざるを得ないでしょう。なぜなら、『大学入学共通テスト・直前チェック』などの名称で “活用” される恐れが強いからです。

 設計制度そのものに欠陥がある状態であるため、テスト形式が改善ではなく改悪になっていると言えるでしょう。

 

 センター試験に代わる「大学入学共通テスト」は、再来年1月に実施され、国語と数学に従来のマークシート方式に加えて記述式問題が初めて導入されます。

 採点は、ベネッセの関連会社に委託されましたが、国は50万人に上る記述式の採点をどのように適切に進めるのか、詳細を明らかにしていません。

 これについて、NHKは採点の手順などを大学入試センターが記した「仕様書」と呼ばれる資料を入手しました。

 そこにはベネッセの関連会社が試験を実施する前に、正答例や採点基準の作成に関与すると明記されていました。つまり、民間事業者は、試験前から問題と正答例が知らされる立場にあるということです。

 大学入試センターは、こうした方法でなければ、20日間という短期間で大量の採点を行うことはできないとしたうえで、守秘義務などを厳守してもらうことで、問題の漏えいなどを防ぎたいとしています。

 

『答案』が手元にない状況で、『正答例』の準備が完了していることがおかしい

 まず、試験実施前に採点業者が「問題と正答例」を知っていることが問題です。これは「正答例を知った人物が受験生に回答を教える」という明らかなカンニングが行われる要因となるからです。

 事業者レベルでやるなら、直前模試の形式で行うことでしょう。

 「試験前に実際の問題と正答例」を知っていれば、『類似問題と本番同様の採点基準を用いた模試』を受験生に販売できます。しかも、「たまたま出題範囲が合致していた」と弁明できるのですから、不公平さが拡大することになるでしょう。

 大学入試センターは「守秘義務の厳守で漏えいを防げる」と考えているようですが、これは甘すぎです。なぜなら、上述の事業者ベースの不正行為は守秘義務違反に該当するかは微妙だからです。

 入試方法を変更するなら、「受験生の立場が公平である」と保証されていることが大前提です。しかし、それが大きく損なわれようとしているのですから、本末転倒になる可能性が高いと言わざるを得ないでしょう。

 

「顧客情報流出事故を起こしたベネッセで大丈夫なのか」という問題

 記述式問題で漏えいが懸念される理由は採点を担当する民間業者(=ベネッセ)が過去に顧客情報の流出事故を起こしているからでしょう。これにより、「制度設計」だけでなく「運用体制」も懸念点になったからです。

 しかも、約1万人の採点者の中には学生アルバイトが含まれているのです。

 バイトが悪ふざけで企業に損害を与えても、「賃金が低いことが諸悪の根元」などと擁護する活動家が持ち上げられている時代です。マスコミは企業が損害賠償を起こしたケース(= くら寿司の件)では “問題を起こした側” に同情的な記事を書いていますから、損をするのは真面目な学生になることは避けられないでしょう。

 1回の試験だけで学生の実力を推し量ることは可能ですが、対象となる学生数には限度があります。したがって、希望者全員の実力を正確に推し量るための試験を実施することは現実的に不可能なのです。

 だから、マークシート方式のセンター試験が行われていたのです。センター試験を「足切り」で使っている国公立大学は現状維持で問題ありませんが、「センター利用」で入学者を募る私立大学は『記述式』を求める理由はあると言えるでしょう。

 

 現行の試験制度でも「子供に最適な教育方法」のために費用を惜しみなく使うことができる富裕層が優位です。ただ、試験は一発勝負が基本で公平性が保たれていました。

 それが AO 入試などで「親の資金力」によって手にした経験が評価されるようになるなど不公平な形態への変更が続いています。天下りを主導した前川喜平氏が事務次官にまで上り詰めた文科省そのものを根本的に是正するプロジェクトを立ち上げることが重要と言えるのではないでしょうか。