日米貿易協定の2020年1月1日発行が決定、TPP と同等の市場開放が進むことに

 日本とアメリカの二国間協定が来年1月1日に発効することが確定したと NHK が伝えています。

 内容としては「TPP と同等」ですが、「多国間ではなく二国間」という違いがあります。TPP を(1度は)脱退したアメリカは「二国間協定」の方が “悪用” しやすい状況にあるため、日本が課題を抱えていることは事実と言えるでしょう。

 

 政府は、日米の新たな貿易協定について、先週、国会で承認されたことを受けて、10日午前の閣議で締結に関する国内での手続きの終了をアメリカ政府に通知することを決定しました。

 これを受けて政府は、締結に関する手続きの終了をアメリカ側に通知し、両政府は、新たな貿易協定を来年1月1日に発効させることで合意しました。

 協定では、日本が牛肉や豚肉などの農産品の市場開放にTPP=環太平洋パートナーシップ協定の水準を超えない範囲で応じるとして、アメリカから輸入する牛肉については、現在38.5%の関税が最終的に9%に引き下げられます。

 一方、自動車分野では、協定の履行中、アメリカは日本車への追加関税を発動しないことを首脳間で確認したほか、日本が求めている関税の撤廃については継続協議となり、日米両政府は、発効後4か月以内に次の交渉分野をめぐって協議を行う方針です。

 

アメリカからの輸入農産品の価格が下がることは消費者にとって朗報

 日本とアメリカの貿易協定が1月1日から発効すると、TPP と同じ効果が生じます。日本国内にいる消費者にとってはアメリカからの輸入農産品に課せられていた関税が引き下げられるため、その恩恵を受けることができます。

 生産者は「関税」という盾の効力を失うことになりますが、輸入農産品は TPP が発効した時点で市場での競争力を増しています。

 アメリカ産の農産品は関税が TPP 加盟国と同水準にまで引き下げられますが、それを理由に「国産」から「アメリカ産」に切り替える消費者は限定的と言えるでしょう。現実には「輸入農産品間でのシェア獲得合戦」が起きる可能性が高いため、大きな変化は少ないと考えられるからです。

 

二国間協定では「自陣営に味方となる国を引き入れての交渉」という手法が使えない

 ただ、TPP と比較すると “別の問題” があることは事実です。それは「交渉時に日本の立場を理解する国がいない」という問題です。日米の二国間協定で「継続協議」となっている分野には自動車があります。

 自動車産業は裾野が広いため、どの国も「自国内の工場で労働者を雇用して生産に当たるべき」との考えを持っています。しかし、自動車メーカーは「人件費の安い国や地域で生産したい」という企業活動の継続に欠かせない利益確保を念頭に置いた考え方です。

 そのため、アメリカ市場だと「自動車メーカー」、「(米系自動車メーカーの工場が多い)メキシコ政府」、「日本政府」の利害は一致しやすい状況にあります。

 ここで「TPP による関税交渉」をされると、「自動車の関税を設けるなら、他分野でアメリカは譲歩せよ」と複数の交渉当事国から突き上げを受けることになってしまいます。だから、アメリカは TPP を離脱し、自らの国力を最大限に活かした交渉ができる『二国間協定』に舵を切ったのです。

 この点に対する警戒は怠るべきではないと言えるでしょう。

 

「TPP と同等の関税引き下げ」という譲歩に対する “見返り” を今後の協議で得られるかが焦点

 日本とアメリカの両政府は二国間協定が発効した後の4ヶ月以内に「次の交渉分野をめぐる協議」が行われる予定となっています。

 経済への影響が大きい自動車産業は「当面の追加関税はない」という状況が確約されています。ただ、日本側が要求しているのは「自動車への関税撤廃」であり、トランプ大統領が譲歩する可能性は低いと言わざるを得ないでしょう。

 アメリカは2020年11月に大統領選挙を控えていますから、「『日米二国間協定』を “実績” にしたい」という思惑がトランプ政権には強く働くはずです。したがって、その点を踏まえた交渉が必要となりますし、民主党候補が当選した場合などの『プランB』を準備しておく必要があります。

 アメリカとの二国間協定を巡る駆け引きは2020年に入ってから本格化すると言えるのではないでしょうか。