ドイツ次期首相最有力のクランプ=カレンバウアー CDU 党首が辞意を表明、メルケル首相の延命策で所属政党が致命的な打撃を受ける

 日経新聞によりますと、ドイツの与党・キリスト教民主同盟(CDU)のクランプ=カレンバウアー党首が辞意を表明したとのことです。

 メルケル氏が首相の座に留まっている間に与党内での足固めをし、2021年の総選挙で(CDU が)勝利することで「クランプ=カレンバウアー首相が誕生する」というシナリオは崩れました。ドイツの混乱はさらに加速する可能性が高くなったと言わざるを得ないでしょう。

 

 ドイツの最大与党、キリスト教民主同盟(CDU)の党首でメルケル首相後継の最有力とみられていたクランプカレンバウアー氏が10日、次期首相候補になることを諦め、党首も退任すると表明した。引き金になったのが、独社会や党内で勢いを増す「強い遠心力」(同氏)だ。極右や緑の党の台頭で世論が左右両極に引き裂かれるなか、中道色の強い既存政党の混迷が深まっている。

 

『議会制民主主義』で「首相」と「最大与党の代表」が違うと、政権の求心力が低下するのは避けられない

 クランプ=カレンバウアー氏が求心力を失ったのは「連立政権で政策の独自性を打ち出せなくなったから」です。それにより、CDU や社会民主党(SPD)が以前に打ち出していた政策を掲げる政党に有権者が流れる結果になりました。

  • 2018年12月にクランプ=カレンバウアー氏が CDU の党首に就任
  • 2019年の州議会選挙で AfD の台頭を許す
  • 「AfD に流れる票を取り戻すための保守回避」と「メルケル路線(中道左派)の維持」の間で板挟みとなる
  • 2020年2月に東部テューリンゲン州で AfD が支持する州首相が誕生。CDU への批判が強まる

 ドイツでは与党 CDU と野党第1党の SPD が『連立政権の罠』に陥っています。連立政権では「1+1 = 2」になりません。なぜなら、連立を発足させる際に政策を譲歩しているため、一部支持者の離反を引き起こしているからです。

 しかも、現状は「ドイツの首相」と「与党第1党である CDU の代表」が別人物です。『単独与党の代表』と『議会制民主主義で選出された首相』が異なる場合でも政権の求心力は大きく低下するのです。

 クランプ=カレンバウアー氏が “板挟み” となるのは当然の結果と言わざるを得ないでしょう。

 

“安全圏” にいる政治家は「選挙後の連立」を見越して『中道』に進みたがる

 連立政権に対し、遠心力が働くのはどの国でも同じです。各政党ごとに掲げている政策が異なる訳ですし、本来の政策から妥協するほど遠心力が強くなるのは当然だからです。

  • キリスト教民主同盟(= CDU)
    • SPD との連立で主要支持層の中道右派が離れる
    • 連立維持には『中道左派路線の継続』が必要
    • 『AfD (ドイツのための選択肢)』が代替政党に
  • 社会民主党(= SPD)
    • CDU との連立で主要支持層の中道左派が離れる
    • 連立維持には『中道右派路線の容認』が必要
    • 『緑の党』が有力な代替政党

 連立に意義を感じているのはメルケル首相のように「中道右派を支持層に持つ第1党に所属する中道左派・リベラルの考えを持つ政治家」です。なぜなら、『中道右派から得た票』を使って『中道左派的な政策』が実行できたからです。

 しかし、総選挙で「有権者の多数派」ということが明らかになっている中道右派層の要望を実現することは政治の都合で後回しとなっていました。

 この状況を受け入れる有権者はいないでしょう。なぜなら、“自分たちが投票した政治家” が公約を果たすどころが、異なる主張をする政党の支持者に媚を売り続けているからです。当然、そうした方針を貫くほど支持者離れが発生しますし、政治的に似た主張をする政党への支持は流れます。

 その結果が『AfD の躍進』であり、『緑の党の躍進』なのです。これを「強い遠心力」を表現するのは『連立政権の中枢』にいる政治家ならではの認識に過ぎません。「党が掲げている “本来の政策” を忘れて保身に走っている」と言わざるを得ないでしょう。

 

「受け皿となる代替政党が存在すること」は評価されるべき点だろう

 とは言え、ドイツで連立政権の先行きに暗雲が立ち込めている要因には「有権者が他の政党に期待している」という事実もあります。この部分は評価されても良い点だと言えるでしょう。

 日本も自民党と公明党による連立政権が続いています。両政党ともに『党が掲げた政策』が 100% 実行される訳ではなく、互いに相手政党に配慮する形での譲歩を強いられているはずです。

 そのため、「支持者離れ」に見舞われても良いのですが、そうした逆風にはさらされているとは言えない支持率で推移している状況です。

 これは日本に『自民党の政策を代弁する政党』や『公明党の政策を代弁する政党』が存在しないからでしょう。『自公連立政権と対決する野党』は複数存在しますが、『自民党や公明党と同じ政治思想で異なる政策を提案する政党』は存在しないのです。

 この状況で『野党』の狼藉をマスコミが全力擁護に走るのですから、自民党(や公明党)の支持者は減少しても “消極的な支持者” として留まるのは当然です。

 当事者意識を欠き、言いがかりを付けるだけの政党が多数派になることはないでしょう。“現実の問題” を無視した理想論に基づく政策を実行していまうと不都合が生じて損害の方が大きくなることを民主党政権で学習しているからです。

 

 ドイツは『メルケル路線の継続』を「クランプ=カレンバウアー党首への禅譲」という形で中央政府は画策しましたが、メルケル首相がレームダック化していたため、求心力の低下がさらに深刻化して頓挫する結果となりました。

 イギリスの EU 離脱が正式に決定したことで遅かれ早かれヨーロッパに混乱がもたらされることになるでしょう。その際に EU の牽引役であるドイツが機能不全だと影響が大きくなってしまう恐れがあります。ドイツが混沌から上手く抜け出すことができるかが注目点と言えるのではないでしょうか。