自治体方針に「NO」を突き付ける意味もある『ふるさと納税』に苦しむ世田谷区の保坂区長が「国は制度を見直せ」を不満を述べる

 NHK によりますと、都内の区市町村で最も人口の多い世田谷区で『ふるさと納税』の額が大きくなったことで住民税収入が減少し、保坂区長が制度見直しを要求しているとのことです。

 文句を言っていますが、『ふるさと納税』には「自治体の仕事ぶりを評価する」という側面もあるのです。「1人1票の選挙による審判」とは別の「納税による審判」が存在していることを忘れるべきではないでしょう。

 

 人口が91万人余りと、都内の区市町村で最も多い世田谷区は、ふるさと納税による住民税収入の減額分が年々増えていて、その額は今年度がおよそ54億円と、4年前のおよそ20倍になる見込みで、来年度はさらに70億円にまでふくらむとしています。

 区ではこのままの傾向が続けば、税収の減額分が3年後の令和4年度には100億円を超える見通しだとして、小中学校の校舎の建て替えや高齢者施設の整備などに支障が出てくるとしています。

 (中略)

 保坂展人区長は「疲弊する地方に大都市がいくぶんか支援することはいいと思うが、都市部が返礼品を使ってこの制度を乱用する事例も起きている。1000万でも1500万でも寄付できる人がいて、上限もない。国には制度を見直すべきと言いたい」と話しています。

 

所得に上限がないのだから、納税額にも「絶対値による上限が存在しない」のは当たり前

 世田谷区の保坂展人区長は「(『ふるさと納税』に)上限がないのはおかしい」と不満を述べています。しかし、これは無理筋な要求です。

 納税額は「所得の割合」で決まります。所得の上限がなければ、納税額の絶対値による上限も存在しないのは当然です。制度見直しの声への賛同者は少ないと言わざるを得ないでしょう。

 なぜなら、『ふるさと納税』は納税者が自発的に申告して利用する制度だからです。自動的に居住地以外の自治体に納税するタイプではないため、住民税の減少に悩む自治体は “何らかの理由” を抱えていると見るべきでしょう。

 

「独身者」や「高額納税者」は『ふるさと納税』を活用することで得られるリターンが大きい

 『ふるさと納税』が一部の地方自治体にとって厄介なのは「誰でも利用できるため、政策による恩恵が少ない納税者ほど利用価値が大きい」という “バグ” が存在することです。

独身者 扶養控除がなく、実質的に『独身税』を支払っている状態
高所得者 高収入であるため、納税の絶対値も相対的に高くなる。その一方で「強者」と認定されるため、行政のサポートは後回しになる

 選挙は1人1票ですから、「弱者に寄り添う政策」を打ち出した方が勝てる確率は高くなるでしょう。ただ、「弱者に寄り添う政策」を実行するための予算は『扶養控除の使えない独身者』や『高納税』で賄われることになります。

 これらの人々は通常の納税方法では何の対価も得られません。しかし、『ふるさと納税』を利用すれば、“何らかの対価” を得られるのです。この動きを止めるには「対策」が必要ですし、制度の文句を言うだけでは意味がないと言わざるを得ないでしょう。

 

「政治的正義を求めて突き進む自治体に『NO』を毎年突き付ける」という側面もある

 地方自治体の首長にとって『ふるさと納税』が頭痛の種になる要因で見逃せないのは「毎年発生する」という点です。

 政治家は選挙による審判を受けますが、「4年に1回」が基本です。市区町村では無投票になるケースも少なからず存在するため、多選による慢心から「人気取り」へと走る首長が出ても止める有効な手立てがない状況です。

 ポリティカル・コレクトネスが流行した昨今では「外国人に対するヘイトスピーチ禁止条例」を制定する自治体が現れるなど、住民が長年求めている対応を後回しにして政治パフォーマンスに入るケースもあります。

 こうした首長に「選挙以外で NO を突き付けるため」に『ふるさと納税』をフル活用する有権者も少なからずいるでしょう。こうした人々は選挙では切り捨てられる得票数でしかなくても、納税額では無視できない額を納めている層である可能性があるのです。

 現首長の掲げた政策で恩恵を受けていない層は財政難で自治体がサービスの規模を縮小しても困りません。それによって現首長が支持層から突き上げを受けて見放されて失脚してくれた方が恩恵が大きいのですから、『ふるさと納税』を使った “制裁” を止めることはないでしょう。

 

 納税額は平等ではないのですから、行政サービスは可能な限り公平に配分しなければなりません。不公平な配分をしている現状では『ふるさと納税』による是正機能が働き続けることは止むを得ないと言えるのではないでしょうか。