国内の病床数(= 約90万床)を無視した孫正義氏が「100万件の無料簡易 PCR 検査」を表明し、『医療崩壊』の “引き金” に指をかける
ソフトバンクの孫正義氏が「新型コロナウイルスの不安がある人のために『簡易 PCR 検査』の機会を無償で100万件分を提供したい」とツイートしています。
新型コロナウイルスに不安のある方々に、簡易PCR検査の機会を無償で提供したい。まずは100万人分。申込方法等、これから準備。#コロナ検査有志
— 孫正義 (@masason) 2020年3月11日
これを実行に移すと医療崩壊が発生するでしょう。「検査後の対応」は病院機関に丸投げする形ですし、日本国内で現実に利用できる病床の上限は約90万床です。パニックを起こして儲けに走る “政商” の本領発揮と言えるでしょう。
『簡易 PCR 検査』の結果が判明した後の措置は誰がするのか
孫正義氏は『簡易 PCR 検査』を以下のプロセスで実施する考えであると自身のツイッターに投稿しています。
現在検討中の簡易PCR検査の流れ #コロナ検査有志 pic.twitter.com/YTFKvcoVTh
— 孫正義 (@masason) 2020年3月11日
まず、『PCR 検査』は新型コロナウイルスの感染を確認する現時点で “唯一の” 検査方法ですが、「精度が高くない」という問題があります。孫氏が機会提供を提案した『簡易 PCR 検査』は『(従来の)PCR 検査』よりもさらに精度は低くなるでしょう。
次に、採取した検体の密閉が不完全な状態だと輸送時に物流関係者への感染が発生する恐れがあります。
そして、最大の問題は『簡易 PCR 検査』後の対応を医療機関に丸投げすることです。孫氏がやるのは「『簡易 PCR 検査』の費用負担(100万人分)」です。簡易検査ですから、「陽性」と出た人は検査結果を持って既存の医療機関を受診するでしょう。
そこで「『PCR 検査』を受けさせろ」とゴネることは目に見えていますし、医療費は国が負担するため、費用負担は国民に転嫁されます。また、限りある病床や医師・看護師・技師などの医療リソースが「新型コロナウイルスの軽症患者」に消耗されるため、急患が命を落とすリスクが高くなってしまう現実は無視すべきではありません。
新型コロナウイルスの患者を入院させることを想定した感染症病棟は全国に約1800床しか存在しない
孫正義氏は打ち上げたアイデアで最も致命的なのは「日本国内で急患を受け入れられる病床数の上限を超える『簡易 PCR 検査』の実施を提案したこと」です。なぜなら、厚生労働省が発表している病床数(PDF)と稼働率(PDF)は以下のとおりだからです。
病床数 | 利用率 | 空き病床数 (期待値) |
|
---|---|---|---|
感染症病床 | 1,822 (+6, +0.3%) |
3.6% | 1,756 |
結核病棟 | 4,762 (-448, -8.6%) |
33.3% | 3,176 |
一般病棟 | 890,712 (-153, -0.0%) |
76.2% | 211,989 |
新型コロナウイルスに感染した場合は『感染症病棟』での対応が基本ですが、その病床数は日本全国で約1800床です。
約1800床しかない理由は「稼働率が 5% を切る水準」だからです。過去の病気である印象が強い結核の患者よりもニーズが少ないのですから、病床数が限定されているのは止むを得ないと言えるでしょう。
ちなみに、「日本国内の病床数150万床」という数値は事実ですが、『精神病棟(約30万床)』と『療養病棟(約30万床)』が含まれた数字です。これらの病棟は「感染症などの急患を受け入れる施設ではない」ため、受け入れには限度があることに留意しなければなりません。
クルーズ船の乗客・乗員が首都圏および近郊の感染症病棟を埋めた状態で『簡易 PCR 検査』の患者を送り込むと医療崩壊が起きる
孫氏はビル・ゲイツ氏が行った『簡易 PCR 検査』をやろうとしたようですが、日本とアメリカでは医療へのアクセスの難易度が根本的に異なります。
アメリカは医療費が “べらぼう” に高額だから、無料の簡易検査を実施する意味は日本よりあります。しかし、医療へのアクセスが誰でも容易な日本では「ドクター・ショッピング」というアメリカとは『別の医療問題』を抱えているのです。
しかも、クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス』を受け入れたため、首都圏および近郊の感染症病棟は「ほぼ満床」のはずです。そこに『簡易 PCR 検査』を受けて陽性反応が出た軽症患者が「入院させろ」と押し寄せるのですから、一般病棟まで埋まることでしょう。
そうなると、急患を病院に搬送することが物理的に不可能なり、医療崩壊が発生します。医療崩壊が起きると、通常の措置を施すことで救われたはずの命が失われることになるのです。これは絶対に回避しなければならないことです。
そもそも、新型コロナの中症以上の症状が出ている人は『通常の PCR 検査』で陽性が確認されて入院措置が採られるはずです。
病床はそうした人々や他の病気・疾患を発症した人が利用できるように余力を持たせているべきであり、不安を煽られた群衆が「安心」のために使うことは本末転倒と言わざるを得ません。
新型コロナウイルスに対しては「検査をすることに意味がある段階は過ぎ去った」のです。治療法が対症療法ですから、『簡易 PCR 検査』の無償提供は院内感染と医療崩壊を引き起こすだけです。
その尻拭いをするのは医療機関であり、問題の引き金を引いた孫正義氏(やソフトバンク)ではありません。孫氏は東日本大震災の際に太陽光発電バブルを引き起こす『FIT (全量固定買取精度)』を作り、年2兆円規模の電気代高騰を招いた張本人であることを忘れてはなりません。
孫氏の “思い付き” に乗っかった群衆が現れるとパニックが発生し、それが医療崩壊の引き金となるのです。再生可能エネよりも直接的に人命に関わるため、計画撤回を明言させることが重要と言えるのではないでしょうか。