「業界の慣習を破るとは何事か」と(他社の)労組が “人気のデジタル人材” に『初任給1万円アップ』を提示した富士通を批判する

 日経新聞によりますと、富士通が大学初任給を1万円超にするとのことです。

 デジタル人材を獲得するための方針ですが、好条件を提示できる外資系との人材獲得合戦を富士通が制することは簡単ではないでしょう。

 しかも、(富士通の)条件引き上げを他社の労組が批判しているのですから、多くの従業員が “正当な報酬” を得ることは困難な状況となっています。

 

 2020年の春季労使交渉は、日本企業の賃金の考え方が変わる節目となった。基本給の底上げに当たるベースアップ(ベア)の横並びが崩れただけではない。富士通は大卒初任給の上げ幅について、業界の慣習を破り、一律要求3000円を大きく上回る1万円超にする。デジタル人材の獲得は資金力のある外資系に劣り危機感を強めているためだ。

 (中略)

 「富士通は業績の悪い期間、業界の一律ベア交渉で足を引っ張ってきた。そんな会社が抜け駆けするとは」。電機他社の労働組合幹部が憤るのが、11日に公表された富士通の回答内容だった。

 

企業に「徹底した横並び」を要求する労働組合

 日本企業が外資系と比較して生産性で劣るのは「労働組合が正社員の既得権益を最優先にして動くから」です。その1つが「(同業他社間での)徹底した横並び」です。

 電気機器メーカー労組は「業界の総意」という立場で春闘に臨み、一律ベア交渉で企業から “同じ回答” を得ることを目的にして来ました。

 この手法が効果的だったのは高度経済成長期です。全ての産業が成長曲線を描いていたため、一律交渉・一律回答は合理的でした。

 しかし、前提条件が崩れてしまいました。その大きな理由は「技術革新によって求められる能力が変わるスピードが劇的に上がったから」です。

 要求される能力を新たに身に付けれない従業員を切ることができない環境を作ることに熱心な労組は「厄介な存在」と言えるでしょう。

 

時代のニーズに合致したデジタル人材を確保したくても、“解雇できない既存正社員” の人件費が重くのしかかる

 日本型雇用の特徴は「終身雇用+年功序列」です。『終身雇用』は長期的なプロジェクトなどの基礎研究などで導入する意味のある雇用制度です。

 しかし、そこに『年功序列』が加わると「業績を残していない正社員」が制度の恩恵を受ける弊害が発生してしまうことになります。これが今の日本企業が抱えている最大の問題です。

 「企業の業績」や「従業員の成績」ではなく、「年功」によって賃金が決まるのです。

 企業が求める仕事の内容が変化すれば、『年功』は何の意味もありません。富士通などが求めている “デジタル人材” における『年功』は「おそらく全員がゼロの状態」です。

 にも関わらず、報酬面は「在籍年数の多い者ほど高くなる」という “いびつな形” になっているのです。しかも、そうした人物を解雇したくても『解雇4要件』で守られていますし、減給も実質的に不可能でしょう。

 その結果として「必要な新卒人材を確保するために費やす予算額が限定的」となり、企業の競争力が低下することになるのです。「既存正社員の雇用を守るために新卒採用を抑制したり希望退職を募れ」と『解雇4要件』で定めた弊害と労組の活動はマイナス面が大きいと言わざるを得ないでしょう。

 

中高年正社員の既得権益を代弁する労働組合の組織率が低下するのは当然のこと

 富士通の決定に他社の労組幹部は憤っているようですが、周囲は冷めた目で見ていることでしょう。なぜなら、労組の組織率が大きく下がっているからです。

 労働組合は「『終身雇用+年功序列』で恩恵を得た中高年正社員」が持つ既得権益を守ることに尽力しているため、若い従業員が労働組合を敬遠しています。しかも、労働者の勤務・雇用環境改善とは関係のない政治的主張(例えば、集団的自衛権反対)などを展開する有様です。

 これでは見向きされなくなるのは当然ですし、先鋭化が進むことになってしまいます。

 労組が守っているのは「成果を残せずにコストパフォーマンスが割高になっている中高年の正社員」です。彼らの報酬を維持するために他の従業員が “本来なら手にしているはずの報酬” を奪われているのですから、労組も反感を買うのは当たり前です。

 方針転換すれば生き残れるという状況で『変化』の選択肢が剥奪されている企業に待ち受けているのは「経営破綻」か「吸収合併」のどちらかでしょう。そうなると平均的な社員にも弊害が出るのですから、横並びの『護送船団方式』による逃げ切るを図る労組は退場させる必要があると言えるのではないでしょうか。