朝日新聞、新型コロナウイルスの濃厚接触者を把握しやすくするためのスマホアプリに否定的な論陣を張る

 政府が「新型コロナウイルスの陽性反応者と濃厚接触の疑いがある人」を把握するために導入を予定しているスマホアプリについて、朝日新聞が否定的な論調を展開しています。

 先行事例であるシンガポールで導入者が伸び悩んでいますが、これは運用方法にも影響があるでしょう。なぜなら、「濃厚接触の疑いあり」とだけ通知されるのなら、アプリをインストールするメリットが利用者側には少ないからです。

 したがって、アプリの機能を有効にしていた人が得られる “恩恵” の面で『日本型』を追求すべきと言えるでしょう。

 

 新型コロナウイルスの感染者が誰と接触したかを洗い出すため、日本で来月上旬にも、個人のスマホの記録を使った追跡システムが動き出す。利用を希望する人は専用アプリをダウンロードすることで、濃厚接触の疑いがあった場合に通知を受けられる。政府は、感染者の行動把握に手間取る現状を打開したい考えだが、先行するシンガポールでは、プライバシー侵害への懸念から導入者が伸び悩んでいる。

 (中略)

 利用者同士が一定の時間近くにいると、近距離無線通信「ブルートゥース」を使って相手の情報を匿名でスマホ端末に記録する。利用者の感染が判明すると、記録されていた人のスマホに「濃厚接触の可能性」について通知される。「いつ、どこで、誰と接触した」かは通知されない。

 

「濃厚接触の疑いがあります」とだけ通知されるアプリを積極的に導入するメリットは利用者には少ない

 日本での導入が検討されている『追跡アプリ』の挙動については井上隆行氏が note に寄稿しており、概要は以下のものです。

  • Bluetooth を使って接触者を追跡
  • アプリを入れたスマホが接近した際に互いの ID を交換し、ログを残す
  • ID は匿名化または暗号化されている
  • 端末のデータベースに貯められた “すれ違いログ” は21日が過ぎると消去

 匿名や暗号化の方法はシンガポールやアメリカなど開発者によって異なりますが、大方の方向性は同じです。ただ、現状では一般人にとってのメリットが少ないことに変わりはないでしょう。

 なぜなら、「濃厚接触の可能性があります」と通知されるだけだからです。他に何も恩恵はありません。これではアプリの普及が進まないのは当たり前と言えるでしょう。

 

日本での普及を目指すなら、「医療費の自己負担分を国が面倒を見る」という対価を提示すべき

 もし、日本国内で『追跡アプリ』や『行動記録アプリ』を使った「感染者の行動把握」に本腰を入れたいのなら、相応の対価を提示すべきでしょう。そうしないと、誰からも見向きはされないことは火を見るよりも明らかだからです。

 実際に対価として(国内居住者に)打診する内容は「医療費の自己負担分を国が面倒を見る」が現実的です。

 要するに、「詳細な行動履歴を正直に提供してくれた人」に対し、「医療費の自己負担分を国が持つ」という交換条件を提示する形です。『追跡アプリ』が必要となるのは “緊急時” ですから、この提案は国民に受け入れられる可能性があると言えるでしょう。

 「暗号化されていても政府に個人情報を渡したくない」という人はアプリをインストールしなければ良いだけですし、感染が確認された場合は “通常の医療費” を支払うだけで特段の損失はありません。

 したがって、「今後の運用」を念頭に置いた形でのアプリ開発が重要になるでしょう。

 

個別事例の詳細情報を開示する必要性は皆無だが、集団感染など発生傾向についての情報開示は必須

 「濃厚接触者の疑いがあります」と通知するだけでは利用者の不安を煽ることにしかなりません。そのため、利用者への通知が前提となったシステムを運用するのであれば、“通知を受け取った人” へのフォローも行政側の責務として入れておく必要があります。

 感染者の事例を世間一般に公開する必要がないことは明らかですが、集団感染(= クラスター)などの発生傾向については従来の運用が維持されるべきでしょう。

 つまり、集めたデータを基に専門家会議などが「クラスターの発生傾向」についての情報公開は必要ということです。

 新型コロナウイルスについては「密閉」「密集」「密接」の条件が揃うほど感染のリスクが高まることが調査で明らかになっています。“得た情報を分析した結果” を還元することが行政の役割ですし、そうした使い方がされるように要求することを忘れるべきではないでしょう。

 

 保健所の職員による聞き取り調査でも効果を得ることは可能ですが、風俗関係など「他人に知られたくない場所」への訪問履歴はほとんどの人が口を閉ざす問題も浮上しているのです。

 『追跡アプリ』も「入店前に(スマホの電源やアプリ機能を)オフにする」という方法でログの一部に欠損が生じることに留意すべきでしょう。したがって、“完全なログデータ” が提供されることとの引き換えで、アプリ利用者が恩恵を得られる形にすべきと言えるのではないでしょうか。