新型コロナの『抗体検査』に献血は使えるが『抗体検査の性能評価』には不適切。マスコミは厚労省や日赤に意図を質すべき

 「日本赤十字社が抗体検査に協力することを発表した」と各メディアが報道しています。

 “献血検査用血液の残り” を活用するとのことですが、目的が「抗体検査」や「抗体検査の性能評価」とブレている状況です。前者に対して献血は有用ですが、後者の目的では献血を使うことは正しい結果が得られないため基本的に不適切です。

 この点についてマスコミは厚労省や日赤に「その方法では適切な結果が得られないのでは」と質す必要があると言えるでしょう。

 

 日本赤十字社では、厚生労働省 新型コロナウイルス感染症対策推進本部および医薬・生活衛生局からの協力依頼を受け、献血血液における検査の残りの血液を有効活用し、新型コロナウイルスに対する抗体検査に使用する測定キットの信頼性を評価する研究を実施いたします。

 (中略)

 研究への同意はあくまで、献血される方の自由意志によるものであり、研究利用への同意をいただかない場合でも、献血へのご協力は可能であり、献血者の皆様が不利益を被ることはありません。

 

『抗体検査』は「世論調査」と同じ形式で行われるもの

 まず、抗体検査はマスコミが月に1回のペースで行っている世論調査と同じ形式で行われるべきものです。

  • 対象者は「人口構成を考慮した上で無作為」に抽出
  • 「調査実施期間」と「対象人数」の明記が必要

 世論調査では対象は原則として無作為に選ばれます。ただ、都市部に人口が偏りすぎているため、都道府県別などで抽出人数に制限をかけるなどの工夫は凝らしているでしょう。

 抗体検査を実施するのであれば、日赤に協力を仰ぐことは合理的です。献血血液を検査するための体制は既にある訳ですから、献血者の中から抗体検査に協力してくれる人を探すだけで良いからです。

 ただ、懸念となるのは「抗体検査に使用する測定キットの信頼性を評価する研究」と言及している点です。なぜなら、この場合は直近に採血した献血は使えないからです。そのため、「目的と手段がおかしいのでは?」と厚労省や日赤に質す必要があるでしょう。

 

『抗体検査キットの性能評価』は「世論調査の手法が適当か」を見るためのもの

 日赤が公式ホームページ上で言及しているのは「抗体検査キットの信頼性評価」です。これは抗体検査とは別物であり、「世論調査の信頼性を評価する研究」という意味です。

 つまり、この場合は対象者の選別が “無作為” では困ったことになります。なぜなら、検査キットの性能を正しく評価できないからです。

  • 世論調査(≒ 抗体検査)
    • 対象者は「人口構成を考慮した上で無作為」に抽出
    • 「調査実施期間」と「対象人数」の明記が必要
  • 世論調査の信頼性を評価する研究(≒ 抗体検査キットの性能評価)
    • 政権支持者100名の中、何名が支持と判定されるか
    • 政権不支持者100名の中、何名が不支持と判定されるか

 「不良品が含まれる割合」を調査するためには「合格品と不良品が適切に判断されている」という前提が必要です。合否判断の性能調査をするためには「合格品」と「不良品」を事前に準備した上で “判定の精度” を見ることが基本です。

 これは『抗体検査キット』の場合についても同じはずです。「かなりの確率で抗体を保持しているであろう検体」と「おそらく抗体は保持していない検体」を使わないと『抗体検査キット』の精度は判定できないはずだからです。

 そのため、「4月中旬以降に採血した献血を使った抗体検査キットの性能評価はおかしい」との指摘が厚労省に向けられるべきでしょう。

 

「今すぐには使わない」や「過去の検査用血液を使うため」などの工夫がなければ、無駄なデータを集めるだけ

 4月中旬以降に採血した献血は「活用できる部分」と「無意味な部分」が混在しており、何の目的で使うのかを厚労省など当局に問い質す必要があります。

  • 活用が見込める部分
    • “信頼性が確認された抗体検査キット” での調査に利用する場合
    • 過去の献血についての利用許可を得る場合
      → 前回の献血時は新型コロナに未感染
  • 無意味な部分
    • 抗体検査キットの性能評価に利用する場合
      → 献血者の陽性/陰性が不明なため

 定点観測を目的にしているなら、「4月下旬に都内で採血した血液サンプル」は将来的には大きな意味があります。

 また、過去に献血した人の検査用検体が残っている場合は利用許可を得たいところです。これは「その当時は新型コロナが蔓延していないため、“真の陰性” として『抗体検査キットの性能評価』に欠かせない血液サンプル」だからです。

 一方で『抗体検査キットの性能評価』には使えません。

 この場合は「 “新型コロナの症状が出た上で PCR 検査が陽性になった人” が抗体検査での陽性となるか」と「 “新型コロナの症状がなく PCR 検査でも陰性の人” が抗体検査で陰性となるか」が求められているからです。

 『抗体検査キットの性能評価』は「献血者」ではなく「新型コロナの症状で入院した人」を対象に実施すべきであり、現状の発表内容には疑問が残ります。少なくとも、当局に対して疑問をぶつける必要があると言えるのではないでしょうか。