国内外でパクり放題だった農業育種の世界に『育成者権』が認められる種苗法改正に対し、中日新聞(≒ 東京新聞)が反対キャンペーンを展開中

 東京新聞の親会社である中日新聞が4月25日付の社説で「(5月の連休明けの審議入りが予想される)種苗法改正法案は認められない」との主張を展開しています。

 「農業崩壊が起きる」などと言っていますが、これはブラフです。なぜなら、改正案は「農業育種の分野においても作者の権利が認められる」というものだからです。

 (国内外を問わず)一部の農家が「無断栽培」という形で作者が持つ本来の権利を損ねてきたのですから、この問題が解消されて困るのは不届き者が大半と言わざるを得ないでしょう。

 

 国の登録品種から農家が種取りや株分けをすることを禁ずる改正種苗法案が、大型連休明けにも国会の審議に入る。国民の命を育む食料の問題だ。コロナ禍のどさくさ紛れの通過は、許されない。

 現行の種苗法により、農産物の新しい品種を生み出した人や企業は、国に品種登録をすれば、「育成者権」が認められ、著作権同様、保護される。

 ただし、農家が種取りや株分け

 をしながら繰り返し作物を育てる自家増殖は、「農民の権利」として例外的に容認されてきた。

 それを一律禁止にするのが「改正」の趣旨である。原則容認から百八十度の大転換だ。優良なブドウやイチゴの登録品種が、海外に持ち出されにくくするためだ、と農林水産省は主張する。果たして有効な手段だろうか。

 

種苗の分野には『著作権』に該当する法律がなく、無料コピーが容認される異常な世界だった

 改正案は農水省が公式サイト上で紹介しています。

画像:改正種苗法で保護対象となる農作物

 日本では農作物は「一般品種」と「登録品種」に分類されており、一般品種の割合は 90% 強です。

 今回の種苗法改正で保護の対象となるのは「登録品種」です。ただ、「登録品種」の自家増殖が全面禁止となるのではなく、許諾を得れば従来どおりに自家増殖をすることは可能です。

 したがって、対価をきちんと支払っている真っ当な農家の人々が種苗法改正によって損失を被ることはないと断言できるでしょう。

 

「シャインマスカット」や「あまおう」などを無許可栽培している農家が反発する

 中日新聞(や東京新聞)は「農家の権利」などと擁護していますが、他者が研究・開発した商品を無断で営利目的に利用できる方が問題です。

 これまでは “日本で開発された種苗” は法的権利による保護がなかったため、盗まれた側は泣き寝入りするしか選択肢がありませんでした。

 コンテンツ業界は『著作権』で守られていますし、工業界は『特許権』で守られいます。しかし、農業界での開発者に該当する育成者は守られていないのです。この状況は明らかに異様と言わざるを得ないでしょう。

 研究・開発に何ら関与していない(国内外の)農家からすれば、人気が出た商品を無許可栽培できることは大歓迎です。なぜなら、自分の儲けを最大化できるからです。

 研究や開発は失敗が当たり前ですから、必然的にコストは高くなります。費やした分のコストを回収するために『著作権』や『特許権』があるのですから、この権利が使えない農業界の収益が低いのは必然です。

 「作者は事業者に対して正規販売分の対価を請求して良い」との法案ができることを受けた一部のマスコミが “人気商品の海賊版で儲けているであろう事業者” のためを考えた社説を掲載しているに過ぎません。配慮を示す必要はないと言って良いでしょう。

 

人件費が高い国で『農業』が価値を高めるには、“価格に見合った高品質の農作物” を生産・維持することが必要

 業界の収益性を保つためには “ドル箱” が必要ですが、農業分野では「人件費」が競争力に大きく影響します。つまり、どの国も同じ種苗を使える状況だと “競争力に占める人件費” の割合が大きくなってしまうのです。

 日本は「人件費が高い方の国」ですから、農作物全体の競争力は低い国と言えるでしょう。

 したがって、高級路線の農作物を開発・生育し、収益を上げることができる体制構築が重要にあります。そのため、開発した農産物は『登録品種』として守る必要があるのです。

 シャインマスカットは少々値段が張っても、味が評価されている現状では消費者が購入してくれます。しかし、種苗を無許可で利用した『シャインマスカットもどき』が市場に出回ってしまうと国内で生産しているシャインマスカット農家は行き詰まることになるでしょう。

 また、研究・開発者に対する還元も失われるのですから、その方が農業崩壊に拍車をかけることになります。

 

 中日新聞(や東京新聞)の言う『農家の権利』に「他者の開発商品を無許可で栽培すること」が含まれているなら、そのような価値観を持つ農家は業界から退場させるべきです。規則を守る気がないのですから、基準値を大幅に上回る残留農薬が検出しても不思議ではないでしょう。

 支払う必要のある対価を拒絶してきた(であろう)農家に忖度する一部のマスコミが陰謀論を撒き散らして騒ぎを大きくしているに過ぎません。研究・開発者に相応の対価を支払うことについて農業界が消極的だった現状の方がおかしいと言えるのではないでしょうか。