感染症への水際対策が緩かったことは事実だが、コロナ禍による被害がマシだった幸運を活かした制度改革すれば十分だろう

 FNN が新型コロナウイルス対応に当たった安倍政権の内部から「欧州からの入国拒否が遅れたことが最大の失点」との声が出ていると伝えています。

 結果論に基づく発言と思われますが、観光立国を掲げて訪日外国人旅行客数を伸ばすことに躍起になっていた一方で水際対策は後回しになっていたことは否めません。そのため、後手に回ることになり、被害が拡大する要因になったと言えるでしょう。

 問題点が浮き彫りとなってのですから、それを改善すれば良いことです。制度や予算を責任を持って改善できるかが課題となるでしょう。

 

 緊急事態宣言の全面解除が視野に入ってきた5月中旬ごろ、安倍首相の側近は、これまでの政府の対応をめぐって、後悔を口にしていた。

 「悔やんでも、悔やみきれない。ヨーロッパ旅行や帰国者を止めていれば、こうはならなかっただろう」「ヨーロッパからの入国拒否をすぐにやれなかったのが、最大の失点だ」

 政府が、ヨーロッパ21カ国とイラン全土からの入国拒否を決めたのが3月27日だった。その後、中国や韓国など、入国拒否の対象地域を拡大し、5月27日現在、全世界で111の国と地域の入国拒否を行っている。

 (中略)

 政府内では一斉休校を決めた2月27日以降、ヨーロッパからの入国を拒否する案も検討されたが、「一斉休校決定のプロセスが不透明だ。唐突すぎる」といった批判が、与野党や国民から起こったため、見送られたという。

 

水際で止めることができなかったことで、“第2波” の蔓延を許すことになった

 厚労省が新型コロナの海外移入症例や空港検疫に対する言及を公式に始めたのは3月の連休明けからで、ゴールデンウィーク明けに集計方法を変更するまで続きました。

画像:海外移入症例と空港検疫数

 グラフにすると一目瞭然ですが、4月上旬までは『海外移入症例』が『空港検疫』を大きく上回っており、これは「水際対策が機能していない」ことが示されています。

 要するに、“フリーパス” の状態だったのです。自衛隊が空港検疫のサポートに入ったのは3月28日からのこと。「入国拒否」もないのですから、ヨーロッパからの旅行客も自己申告で日本に入国が可能であり、新型コロナを持ち込む形となりました。

 もちろん、3月にヨーロッパ旅行に出かけた日本人もウイルスを持ち帰っています。こうした状況を食い止める法的根拠や術を持っていなかった現実は大いに反省しなければならないと言えるでしょう。

 

『欧州株』の持ち込みによる “第2波” が起きたことは感染研の遺伝子分析からも判明済み

 水際対策が重要だった理由は4月末に感染研が発表した調査でも証明されています。

画像:新型コロナウイルスの伝播図

 日本国内において初期のクラスターは「屋形船」や「ライブハウス」でしたが、これらは比較的早期に沈静化されています。また、(図中では『紫』で記された)クルーズ船に由来する感染も国内には広まらずに食い止められています。

 しかし、EU から持ち込まれた輸入症例が大きくなってしまっています。

 図中の左上で記された “輸入症例” は初期のクラスターと比較すると、規模が大きいことが見て取れます。水際対策で「完璧に防ぎ切ること」を要求するのは非現実的ですが、「大部分を食い止めること」は十分に可能な目標です。

 「クラスター対策班が追跡できる規模にまで縮小する」という形で制度設計を見直し、必要となる対策費は訪日する外国人に実質的に負担させることが重要になるでしょう。

 

「感染症を持ち込んだ外国人は “対応費” を払わずに帰国してしまう」という現実を踏まえ、対策費を負担させるべき

 水際対策で必要となるのは以下の2点でしょう。

  1. 検査能力の拡充
  2. 検査対象者の隔離手順および能力

 “検査で判断できるもの” でなければ、感染症の疑いのある入国希望者や帰国者を見つけることはできません。そのため、「検査能力を拡充すること」は必要と言えるでしょう。

 次に、少なくとも検査結果が出るまでの期間は対象者を隔離しておくことが絶対条件です。なぜなら、『性善説』に基づく対応をすると、感染を拡大させる恐れがあるからです。

 スペインを旅行した沖縄県の10代女子のように『強制力のない要請』を無視しても問題にはなりません。感染症が蔓延したことへの対応費を負担するのは国だからです。免税の恩恵を得られる外国人なら、より好き勝手に振る舞うでしょう。

 これを抑止するためにも『対策費』は外国人にビザ申請などの形で実質的に負担させるべきです。日本で発生している感染症に不安を覚えるなら、外国人は来日しないでしょう。だから、『対策費』は外国人が負担するべきなのです。

 

 新型コロナウイルスについては医療費はすべて国が用立てる形式が現時点で取られており、現在は閉ざしている外国人観光客への門戸を開くのであれば、「医療費の負担分」を見直す必要があるはずです。

 また、無保険の外国人は入国を拒否するなど、医療機関が泣き寝入りを強いられる原因になっていた部分の是正をすべきです。隔離場所は「ホテルの協力」で何とか間に合っていますが、これは『契約』という形でシステム化しておくべきでしょう。

 浮き彫りとなった問題点を速やかに改善できれば、緊急事態宣言を延長したことによって生じた弊害を最小限することができるのではないでしょうか。