首里城の火災から1ヶ月、「出火原因の特定」も「防火体制の見直し」も不十分な現状で再建に向けて奔走する沖縄県の姿勢はいかがなものか

 10月31日に火災で焼失した沖縄県那覇市にある首里城の再建に向けた具体的な動きが始まっていると NHK が伝えています。

 国が復元に関わった有識者会議を立ち上げるのはまだ理解できますが、管理責任者である沖縄県が「出火原因の特定」や「防火体制の見直し」を行うよりも先に「再建費の心配をすること」は御門違いと言わざるを得ないでしょう。なぜなら、現状では同じ原因で再び焼失するリスクがあるからです。

 

 10月31日、那覇市の首里城で起きた大規模な火災では、「正殿」など主要な建物が全焼し、警察や消防は正殿内の電気系統にトラブルが起き、ショートして出火した可能性が高いとして原因の特定を進めています。

 (中略)

 ただ、再建にあたっては防火体制の見直しが不可欠となるほか、木材などをいかに確保するかという課題もあり、再建に向けた具体的な道筋が定まるにはかなりの時間を要する見通しです。

 

出火原因の特定ができなければ、有効な再発防止策を採ることすらできない

 火災発生時に重要となるのは「出火原因の特定」です。なぜなら、出火の理由によって採るべき対策が異なるからです。

  • 電気系統の問題によるショート
  • 落雷
  • 放火

 「事故的な要素が強い火災」と「事件的な要素の強い火災」では求められる再発防止策は明らかに異なります。前者は「制度的な見直し」が中心になるでしょうし、後者は「運用面での見直し」が中心となるからです。

 首里城の火災では「電気系統のトラブルによるショート」が原因である可能性が濃厚です。したがって、『電気機器の使用基準』が最初の見直し対象になりますし、その上で「定められた基準が遵守されていたか」や「チェック体制は機能していたか」が問われるからです。

 基準や規格が不適切なら、事故が起きる可能性は高くなります。そのため、同じ問題を起こさないためにも原因が特定されることは極めて重要なことだと言えるでしょう。

 

防火体制が重要なのは「実際に火災が発生した際に必要」だから

 次に、見直しが必要不可欠なのは『首里城の防火体制』です。火災の原因は多岐に渡るため、すべての原因に対処することは非現実的と言わざるを得ません。

 そのため、「火災が発生する可能性が高い原因は事前に(可能な限り)排除し、火災が発生してしまった場合は被害を最小限にする防火体制を採ること」が現実的な対応策と言えるはずです。ところが、首里城を管理する沖縄県の防火体制は極めて杜撰なレベルでした。

画像:首里城の放水銃

 活動報告書によると、119番通報があった10月31日午前2時41分から17分後に活動を開始した国場小隊は、正殿裏手の東側に設置された放水銃を使用しようとしたが「収納ぶたが固定され開かない」状況に見舞われた。

 通報から15分後に現場で活動した西高度救助第1小隊は正殿正面の2基を使って放水したが、「舞台装置が放水銃正面に位置し、注水位置が限定的」になった。

 (中略)

 正殿北東側の放水銃は使用された。

 琉球新報が報じた報告書では「4基ある放水銃で問題なく使用できたのは北側の1本」のみ。「東側の放水銃は収納ふたが開かず、西側(= 正殿正面)の2基は舞台装置が壁となったことで消火活動に支障が出た」と記されています。

 「防火体制に問題あり」と言わざるを得ない状況なのですから、これを棚上げにした状態で『首里城再建案』の議論を進めようとすることは「責任の所在をあやふやにしたい思惑がある」と言われる根拠にもなるでしょう。

 

首里城焼失の管理責任が問われる立場にある玉城知事は保身のために「再建の道筋を付けたい」という思惑がある

 沖縄県が『首里城再建』に “前のめり” な理由は「玉城知事が保身に奔走しているから」でしょう。首里城の管理者は沖縄県であり、そのトップは玉城デニー知事です。

 「首里城が焼失した」という事実があるため、沖縄県の管理責任が問われることは避けられません。これだけでは「玉城知事の失点」になってしまいます。だから、『首里城再建の道筋を策定』することを「成果」とすることで “失点分” をカバーしたいのでしょう。

 問題を抱えた状態を再現する意味はありませんし、同じ原因で再び火災が起きようものなら、再建費がすべて無駄になってしまいます。

 それを防ぐためには「出火原因の特定」と「防火体制の見直し」が必要不可欠なのです。時間が要するのは当然ですし、見切り発車をすることでメリットがあるのは責任を転嫁したい首里城の管理責任者です。

 首里城が重要な資源であるなら、問題を有耶無耶にしたままで再建に乗り出すべきではありません。予想以上の時間を要することになっても、原因の特定と必要な対策は施されているべきと言えるのではないでしょうか。