過酷勤務が常態化するキャリア官僚への志望者が減るのは当たり前、原因を作っている政治が「霞ヶ関への接し方」を改めるべき

 人事院が発表したキャリア官僚になるための国家公務員試験の申込者が(現行の試験制度で)過去最少になっていることを公表したと NHK が報じています。

 「勤務体系が割に合っていない」のですから、志望者が減るのは当たり前です。霞ヶ関の能力が低下すると行政力も下がるため、国民にとってはマイナスと言わざるを得ません。

 したがって、「国家の仕事に関われる」という魅力を台無しにするほどの「過酷な勤務状況」を作り出している政治がまずは態度や接し方を改める必要があると言えるでしょう。

 

 人事院は、いわゆる「キャリア官僚」となる国家公務員の「総合職」の来年春の採用に向けた試験の申し込み状況を公表しました。

 それによりますと、申し込み者数は1万6730人で、前の年度と比べて565人、率にして3.3%減りました。

 減少は4年連続で、今の試験制度が導入された平成24年度以降、過去最少となりました。

 また、女性の申し込み者数は6373人で、全体に占める割合は、過去最高の38.1%となりました。

 (中略)

 人事院は、「理系の人材が、IT業界をはじめとする民間企業に流れる傾向が顕著に見られ、申し込み者数の減少の大きな要因になっている」としています。

 

「押し付けられる側の男性」と「押し付けることが可能な女性」では官僚に対する魅力度が違う

 キャリア官僚への志望者が減少している理由は「勤務の実態が過酷すぎるから」でしょう。森ゆうこ議員(参院新潟・国民民主党)のように巨大台風が東京に接近する状況下でも徹夜を強いられ、それが当然と言われる状況だからです。

 「国家の仕事に直接関わることができる」というのは非常に魅力的でプライドを刺激されることは事実です。しかし、過酷すぎる勤務実態はそれを台無しにする最大の原因です。

 そのため、志望者全体の人数が過去最低を記録するのは当然の結果です。

 一方で「志望者に占める女性の割合は過去最高を記録」しているという現実があります。これは『女性』は労基法を根拠に妊娠・育児中の業務軽減が可能だからです。この違いが志望者数に現れただけと言えるでしょう。

 

福利厚生が手厚く労基法を遵守する可能性が高い行政や大企業は女性にとって魅力度の高い職場

 キャリア官僚を志望する女性の割合が高くなっている理由は「福利厚生が手厚く労基法を遵守する」という特徴を行政が有しているからです。

 日本は『成果』よりも『年功』が重視されるため、妊娠・育児をしている女性は「休暇」を取得することに躊躇はないでしょう。なぜなら、その間に成果を出さなくても同僚に遅れを取らなくて済むという恩恵を享受できるからです。

 労基法第64条の3以降に就業制限が設けられます。“軽易な業務に転換” を要求できますし、『時短勤務』で業務を切り上げることも可能です。女性が就職の際に「福利厚生」を重視するのは当たり前と言えるでしょう。

 ただ、妊娠や育児で離脱する女性が担当していた仕事が一時停止する保証がないことが問題となります。

 『個人の仕事』ではなく『部門の仕事』として “ざっくりとしたアサイン” で業務を回している職場の場合、離脱者は理由に関係なく白い目で見られることになります。「部や課の全員が貢献する」という大前提を覆すのですから、負担が増す立場にいる人の不満は大きくなります。

 そのため、キャリア官僚の場合は「負担を押し付けられる側」にいる男性の志望者が減少することになっているのでしょう。

 

まずは国会議員が「霞ヶ関への接し方」を改めるべき

 キャリア官僚は国家公務員ですから、高給を出せる民間企業と給与面で争うことは非現実的です。しかし、「国家の運営に関われる」というメリットがあるため、それで埋め合わせるべきでしょう。

 そのためには「大きなマイナス面を生み出している『国会議員によるキャリア官僚への接し方』を是正すること」が喫緊の課題です。

 『国会開催前日の夜間帯での質問通告』は論外ですし、『野党合同ヒアリング』も同様です。また、そうした狼藉に理解を示すマスコミやそれに苦言を呈さない与党も “共犯” です。

 「官僚の成果物」に問題があるなら、国会で問い詰めれば良いだけのことです。それをせずに “吊るし上げパフォーマンス” に走る野党をマスコミや与党は黙認しているのですから、キャリア官僚に魅力を感じなくなるのは当然です。

 民間企業など世間一般の社会人ならできていて当たり前の「アポイントメントをとる」ことすらできない政治家や政党の面倒を見ることなどバカらしく感じてしまうのは止むを得ないことです。その自覚を国民の代表である国会議員が持っていないのですから致命的と言わざるを得ないでしょう。

 

 「国家の運営に関与できる」という『日本で唯一の魅力』がある職場なのですから、それを政治が台無しにする行為をしていることが問題なのです。これは永田町の政治が作り出した問題と言えるのではないでしょうか。