スラップ訴訟と人権派弁護士

 NPO団体『ヒューマンライツ・ナウ』の事務局長を務める伊藤和子弁護士が池田信夫氏を名誉棄損で訴えたと、池田氏本人が自身のブログで公表しています。

 この件に対し、池田氏は「スラップ(SLAPP)訴訟で脅す人権屋の手口」と批判し、ネット上でも同様の声が見受けられる事態となっています。状況について、少し整理しておくことにしましょう。

 

 原告となった伊藤和子弁護士ですが、人権派弁護士として活動実績をアピールしていますが、ネット上では “人権屋弁護士” として認識され、批判の対象となっています。

 その大きな要因となったのは、2015年10月に “国連「子どもの売買、児童売春、児童ポルノ」特別報告者” として来日したブーアブキッキオ氏が「日本の女子学生の30%が援助交際をしている」と発言した一件です。

 この時、伊藤弁護士はツイッター上で次のような投稿をしています。

画像:伊藤弁護士によるツイート

 ブーアブキッキオ氏との会見前日に、「警察はあからさまな児童ポルノを野放しにしている」ことを伝え、厳しい報告書を出すようプレゼンすると書き込んでします。

 そして、会合後には以下のような投稿を行っています。

画像:伊藤弁護士によるツイート2

 その後、ブーアブキッキオ氏は行われた調査報告会見で「日本の女子学生の30%が援助交際をしている」と事実とは異なることを発言したため、大きな批判を呼ぶこととなりました。

 

 (日本のことを詳しく知らないであろう)外国人の特別報告者が活動家の主張を代弁するコメントを出したものですから、“吹き込んだ人物” を探す動きが出てくることは当たり前です。当然、伊藤弁護士にも疑いの目が向けられ、次のように反論しました。

 

  • 「日本の女子学生の30%が援助交際をしている」との発言に私自身も驚いている
  • 数値は通訳ミスで 13% が正しいと聞いているが、会見映像の確認は不可能
  • NGOを集めた会合の場で誰も女子高生援助交際比率には言及していない
  • 池田信夫氏が「伊藤和子弁護士が30%という話を吹き込んだ」とのデマを流した
  • “犯人探し” が行われることをひどく憂慮する

 伊藤弁護士による反論内容は人権派弁護士のものとは思えない主張が含まれていることに気づかれたでしょうか。

 

 ブーアブキッキオ氏が「日本の女子学生の30%が援助交際をしている」と発言したことは事実であり、このことを否定することはできません。

 伊藤弁護士の反論が正しいのであれば、ブーアブキッキオ氏との会合では誰も女子学生の援助交際比率に言及していないことになります。では、その数値はどこから出てきたのでしょうか。

 根拠や証拠を示せなければ、単なる誹謗中傷です。本人の勝手な思い込みで発言したのであれば、ブーアブキッキオ氏自身が訂正・謝罪義務を負うことは当然のことです。

 伊藤弁護士は「特別報告者は弱い立場を守る必要があり、情報源は秘匿する義務がある」と擁護していますが、“調査データの数値すら出せない一方的な決め付け” は伊藤弁護士自身が突っぱねていることと同様に世間には受け入れらるものではありません。

 また、事実無根の主張を特別報告者であるブーアブキッキオ氏が行ったことで、日本の女子学生の人権が著しく損なわれたにもかかわらず、発言者に批判の声をあげないのには理由でもあるのでしょうか。“人権派弁護士” であるなら、自らの活動を阻害する発言を行ったブーアブキッキオ氏に対して苦言を呈するのではないでしょうか。

 虚偽内容で他人の名誉を傷つけた犯人を探すことすら許されない事態こそ、明らかな人権侵害であり、このことにこそ、人権派弁護士が取り組まなければならない問題です。

 

 伊藤弁護士の行動は『国連・特別報告者の肩書きを持つブーアブキッキオ氏の発言』を “自身の活動ネタ” にするためのものと言われても不思議ではありません。

 他者の言論を封殺する目的で行われる裁判をスラップ(SLAPP)訴訟と呼びますが、伊藤弁護士が池田氏に対して起こした裁判はスラップ訴訟に該当すると言えるでしょう。少なくとも、人権派弁護士を名乗る人物がすることではありません。

 “30% の数値吹き込み疑惑” が生じた際の反論で、「このテーマでも自由に物が言える環境が必要」と伊藤弁護士自らが主張しています。ですが、自由に物が言える環境を人権派弁護士を名乗る自分の手で破壊しようとしていることは皮肉以外の何物でもありません。

 自分たちの活動を称賛する言論だけは守り、批判に対してはどれだけ真っ当な内容であっても一切許さず封殺するというスタンスを貫くのは人権派のやることではなく、活動家のやることだと自覚する必要があるのではないでしょうか。