イギリス、野党などによる EU 離脱を利用した政局化は解散総選挙で頓挫の見込み

 2020年まで議会下院(庶民院)の選挙がなく、EU 離脱を巡る “政局ごっこ” が行われていたイギリスで政治がにわかに動き出しました。

 メイ首相が「総選挙前倒し」の意向を表明し、議会下院が承認したと NHK が伝えています。与党・保守党が権力基盤を維持できるかが最大の焦点と言えるでしょう。

 

 メイ首相は「総選挙を前倒ししなかった場合は、選挙を目前に控える中でEUとの離脱交渉の大詰めを迎えなければならなくなる」と述べ、選挙の前倒しの必要性を訴えました。

 このあと採決が行われ、動議は、賛成522、反対13と、必要な3分の2を大きく超える圧倒的な支持を得て可決されました。

 これを受けてイギリスの議会は来月3日に解散することが決まり、6月8日の投票に向け各党の選挙戦が本格化することになります。

 

 イギリスの政治情勢は政局化しやすい土壌がありました。その1番の理由はテリーザ・メイ首相が “棚ボタ” 的にトップの座に就いたからです。

 前回の総選挙は “キャメロン首相が率いた保守党” が勝利しており、メイ首相の功績ではありません。

 また、EU 離脱を問う国民投票の結果を受け、キャメロン首相が辞職した後の党首選挙ではアンドレア・レッドサム氏が失言問題によって立候補を辞退。実質的に無投票で首相となったため、「信任を受けていない」との批判がある状況でした。

 

1:二面作戦を回避したメイ首相

 2015年5月に下院の総選挙が行われた関係で、2020年5月までは選挙が行われない前提でした。

 この状況だと、EU 離脱交渉で “足を引っ張る勢力” が現れることは容易に想像できます。なぜなら、交渉の最終盤が総選挙前となり、党勢拡大を狙って政局化することが想定できるからです。

  • 現行の日程
    • 2017年3月:EU に離脱を正式に通告
    • 2019年3月:離脱交渉の期限
    • 2020年5月:議会下院の総選挙
  • 新しい日程
    • 2017年6月:議会下院の総選挙
    • 2019年3月:離脱交渉の期限
    • 2022年6月:議会下院の総選挙

 国益に直結する大きな交渉事と総選挙を同時に進行させることは実質的に不可能です。そのため、動かすことができる選挙の日程を変えるという決断は良い判断だと言えるでしょう。

 

2:どの政党も「議席増が見込める」とそろばんを弾いている

 興味深いのは総選挙実施に対し、賛成票が 522 (定数:650)と8割に達したことです。これはどの政党も「議席を伸ばすことができる」と考えているからでしょう。

 2015年に行われた総選挙による主要政党の議席数は下表のとおりです。

表1:イギリス議会下院の主要政党別議席数
政党名 議席数
保守党 330 (50.77%)
労働党 232 (35.69%)
スコットランド民族党 56 (8.66%)
自由民主党 8 (1.23%)

 スコットランドは『スコットランド民族党』の独壇場ですが、それでも全議席に占める割合は 10% に満たないものです。そのため、イングランドやウェールスで確実に議席を積み重ねることが勝利の条件になっていると言えるでしょう。

 与党・保守党のメイ首相が解散総選挙に踏み切った理由は最大野党・労働党がコービン党首の下で足並みが乱れているからです。政党を一枚岩にできない執行部が他党との連立協定を結べる見通しは低く、攻め時だと判断したものと考えられます。

 

3:「EU 離脱反対派」の存在に夢を見る野党陣営

 メイ首相による議会解散の動議に賛成した野党の思惑は「EU 離脱反対派が野党に投票する」と期待しているからでしょう。しかし、離脱反対派は都市部に多いのです。

 親 EU 寄りを掲げる『自由民主党』は南西部で強いと言っても、郊外では離脱賛成派の割合の方が高くなります。国民投票の結果に基づき離脱を通告した後で “離脱反対派” に期待するようでは政局化を狙うことと同じ動きをしていることになるでしょう。

 離脱反対派に現実的な経済対策や移民による社会保障のタダ乗りへの有効的な対策がなかったことが離脱を決定づける要因となったのです。この部分を説得できないかぎり、離脱反対派の勢いが盛り返すことは難しいものと思われます。

 6月の総選挙を終えた段階で、どの政党の目論見どおりとなるのか。現時点では勝負に出た与党・保守党が磐石な勢力基盤を構築する可能性が高いと言えるのではないでしょうか。