エストニア、世界最先端の電子政府がメンテ費用不足で予算編成への懸念が生じる

 「世界最先端の電子政府」として一部で非常に高く評価されているエストニアですが、エストニア最大の新聞『Postimees』が「電子政府は時限爆弾の上に座っているようなものだ」と警鐘を鳴らしています。

 システムには良い点もあれば、悪い点もあることが普通です。エストニアで進行している IT 技術を使った電子政府のどこに問題があるのかを確認することにしましょう。

 

エストニアの IT 技術による電子政府が抱える問題

 Postimees 紙が指摘する問題点は次のようなものです。

  • 今年度、情報システムの開発・運用に1億3500万ユーロを費やした
  • 予算の 1.31% を占める
  • 今後4年で必要となる IT 予算は2億4000万ユーロが現実に不足
    • 今後4年の IT 予算は現在と同じ1億3500万ユーロ
    • 大臣らはシステム更新に追加で年間6000万ユーロを要求
  • セキュリティ部分の 44% が時代遅れとなった上、ソースコードは15年も手付かずの状態
  • EU からの助成金を得れなければ、追加支出となる

 IT システムを維持・管理・運用するための費用が膨らみ、国の予算編成に支障が出始めているのです。行政が保有する IT システムのリプレース案件で発生するトラブルが国家の基幹部分で問題が表面化していると言えるでしょう。

 

エストニアの一般事情

 エストニアの一般事情を日本の数字と比較すると次のようになります。

エストニア 沖縄県
4.5万km2 面積 0.2万km2
(九州+沖縄で4.4万km2)
約132万人 人口 約144万人
209億ユーロ
(≒ 2兆8000億円)
名目GDP 4兆511億円

 エストニアには九州と沖縄を合わせた面積の国土に、沖縄県の人口が住んでいます。また、GDP は沖縄の県内総生産の 70% ほどの経済規模であることを知っておく必要があるでしょう。

 要するに、エストニアの電子政府は “EU の特区” という形で先行実験を行っている段階に過ぎないのです。

 日本で例えるなら、沖縄県や県下の市区町村すべてを電子自治体で運用している中で、システム運用の予算確保に問題が生じている状況なのです。「特区」を使って問題点を洗い出し、解決策を確立させない中で見切り発車を促す言論には注意する必要があると言えるはずです。

 

システム運用に欠かせない電気代は日本では高騰することが決定的

 エストニアの電子政府が頓挫しそうになっている理由は「IT システムの運用・管理費」が予想以上に必要になっているからでしょう。

 これはエストニア政府に限った問題ではなく、IT システムを導入している民間企業でも起きることです。ただ、日本の場合はシステム運用に欠かせない電気代で首が回らなく可能性があります。

 システム管理費はメンテナンス費用であり、電気代とは別物です。エストニアではメンテナンス代で予算編成が苦しくなりつつありますが、日本ではその問題に加え、再生可能エネルギーの導入を進めることで電気代の高騰を招くという別問題も横たわっているのです。

 電子政府は24時間365日運用し続ける必要がありますし、そのためには安価で安定した電力供給が求められていると言えるでしょう。日本は電力自由化で逆行している訳ですから、IT を使った電子政府に向けたハードルは高いと思われます。

 

 IT によって便利になることは間違いありません。ですが、「すべてを IT 化すること」だけが目的になってしまうと、マイナス面が大きくなると言えるでしょう。

 日本で IT 化を進めるなら、『お薬手帳』や『選挙』などの電子化を順を追って導入していくべきと言えるのではないでしょうか。