「交渉期限は年末まで」と啖呵を切った北朝鮮、“ガン無視” を続けて持久戦に持ち込むアメリカに痺れを切らせてミサイルを発射

 11月28日に北朝鮮が発射した2発の弾道ミサイルは「連射である」との見方を河野防衛相が言及したと NHK が報じています。

 日本はミサイル防衛能力の整備に努める必要がありますが、今回のミサイル発射で注目すべきは「北朝鮮がミサイル発射に踏み切った背景」でしょう。なぜなら、北朝鮮は「非核化交渉の期限は年内」と通告したものの、期待した効果を手にすることができずに苦しんでいるからです。

 北朝鮮の定番である瀬戸際外交に対し、周辺の当事国が乗るかが大きな注目点だと言えるでしょう。

 

 28日、北朝鮮が発射した2発の弾道ミサイルについて、河野防衛大臣は記者団に対し、1分未満の短い間隔で発射されたと推定していると明らかにし、北朝鮮が連続発射技術の向上を図っているとして、ミサイル防衛能力の一層の整備に努める考えを改めて示しました。

 

瀬戸際外交で「期限を区切る」という “危ない橋” を渡ってしまっていた北朝鮮

 北朝鮮は非核化交渉において、「対話の決裂」を散らつかせて相手に譲歩を迫る『瀬戸際外交』を用いて来ました。今回の交渉でも同様の手法に出ているのですが、大きな違いがあります。

 約7カ月ぶりとなる米朝の実質的な非核化交渉は、再び物別れに終わった。北朝鮮は米国の姿勢を「手ぶらで来た」と非難し、年末までの一方的な期限を切り再考を迫った。対話が破局する瀬戸際を演じる一方、中長距離の弾道ミサイル発射を再開する可能性をちらつかせながら、融和的姿勢を示す米国に一段の譲歩を迫る交渉戦術とみられる。

 それは日経新聞が今年10月に報じたように「期限を区切っていること」です。

 北朝鮮は「年内(= 2019年の年末まで)」と一方的に通告しました。これは「相手に譲歩を強いることができる」というメリットがある一方、「期日を過ぎると次の行動を “自分たちが” 先に起こさなければならない」というデメリットがあります。

 アメリカのトランプ政権には北朝鮮の要望を丸飲みしなければならない事情はありません。そのため、北朝鮮側が苦境に立たされる事態となっているのです。

 

持久戦が長引くほど、キム・ジョンウン委員長の “取り巻き” への分け前の確保が困難になる

 独裁国家を維持されるためには「当局側の人間がトップを支持していること」が必要不可欠です。一般国民がどれだけ飢えようが、軍隊・警察や特権階級などがトップを支えている限り、体制は継続されます。

 トップから “分け前” が与えられて裕福な暮らしが保証されているなら、謀反が起きる可能性は限りなく低いでしょう。

 しかし、約束されている恩恵が与えられなくなると、体制側の人間がクーデターを企てる確率が飛躍的に高まります。北朝鮮は外国に派遣した自国労働者の賃金を国家が没収するような形で外貨を獲得し、キム委員長の “取り巻き” を分け与えて来ました。

 ただ、国連制裁によって北朝鮮による外貨獲得はますます困難となっており、年内には国外に派遣している北朝鮮労働者の締め出しが本格化します。そうなると、キム委員長に近い立場の人間であっても分け前を与えにくくなるため、体制そのものが揺らぐリスクが現実的にあるのです。

 だから、交渉を「年内まで」と区切り、制裁を解除させることで体制の安定化に奔走したいのでしょう。ですが、アメリカ側にキム委員長の置かれた立場に配慮してまで譲歩する必要性はありません。だから、持久戦に持ち込み、北朝鮮をより窮地に立たせようとしているのです。

 

香港情勢に注目が集まっているため、北朝鮮関係でポイント稼ぎをする必要がない

 北朝鮮にとって皮肉なのは「世間の注目が香港情勢に集まってしまったこと」でしょう。なぜなら、香港は『民主主義』の実現を求めて、中国政府と対立しているからです。

 「民主主義が根付き、成熟した社会がある」との自負が強い欧米諸国では香港で起きている『民主化運動』は琴線に触れるものがあります。「自国の首脳が民主主義を否定する中国政府にどのような反応するのか」を見ている有権者もいるはずですから、次の選挙に向けた動きも含まれることでしょう。

 トランプ政権から見れば、「北朝鮮に譲歩する形で非核化交渉の妥結」より「香港の民主化運動に寄り添い、中国政府を批判」した方が有権者に好感を与えることになるはずです。

 また、「中国からの輸入品に関税をかける」という “攻撃” もしたことがあるため、強硬策に出ることも可能という他国にはない強みも持っています。この状況を捨ててまで『北朝鮮の非核化問題』で “ポイント稼ぎ” をする必要はないのですから、持久戦のままで放置することがアメリカにとっては合理的です。

 制裁が続くことで困るのは北朝鮮であり、対話が決裂したことで瀬戸際に立たされるのも北朝鮮なのです。日本はミサイル防衛能力に対する整備を進めつつ、国内にいる北朝鮮シンパの動きに警戒を続けるべきと言えるのではないでしょうか。