EUとのEPA(経済連携協定)交渉において譲歩は不要だ

 ドイツを訪問している岸田外相はEUの通商政策担当者とも会談の場を設け、EPA締結に向けた交渉を継続する必要性を確認したとNHKが伝えています。

 市場のルールを共通化することによる経済的なメリットは大きいものです。しかし、メリットだけに目を奪われると必要のない譲歩をする結果となり、マイナス面が生じるリスクがあることを認識しておく必要があると言えるでしょう。

 

 岸田外務大臣は日本時間の17日夜、訪問先のドイツのボンで、EUの通商政策を担当するマルムストローム委員と会談しました。この中で、岸田大臣とマルムストローム委員は、日本とEUのEPA=経済連携協定について、世界の保護主義的な動きに対抗するためにも、可能な限り早い時期に大枠合意することが極めて重要だという認識で一致し、次回の交渉の日程調整を急ぐことになりました。

 

 EUとの経済交渉においても目安となるのはTPPです。

 “経済連携協定” についての交渉を行う訳ですから、経済部分だけに絞って交渉を行うことが大前提であることは言うまでもありません。しかし、EUは経済交渉に経済とは別分野も押し込もうとすることが考えられるため、その部分で譲歩することはあってはならないことなのです。

 

 特に、注意が必要となるのは「経済協定を締結する条件としてEUの文化的価値観を受け入れる」という部分においてでしょう。

 具体的に言及すると、「人道上の観点から、死刑廃止にする」という経済とは関係ないテーマをねじ込んで来ることが十分想定できることです。

 リベラル派はこれを受け入れることを要求するスタンスを採ることでしょう。ですが、政治の問題であり、経済連携協定と引き換えに譲歩すべき点ではありません。

 もし、譲歩を考えるのであれば、EU側にも「捕鯨は何ら問題ない」と表明させるなど文化的な面での譲歩が不可欠なことなのです。

 日本の死刑制度は三審制に基づき、刑が確定します。ですが、ヨーロッパでは犯人は裁判を受けることなく、疑惑の段階で警察や特殊部隊などに現場で射殺されているのです。どちらが “人道的” であるかは言及する必要すらないことでしょう。

 

 TPPではアメリカは日本市場にアメリカ車を購入することを義務化しようとしました。EUもEPA(経済連携協定)で同じことをしようと画策しています。

 ただ、EUの場合は対象が「車」ではなく、「鉄道車両」です。鉄道事業はほとんどの国で国有鉄道がメインであり、日本のような私鉄が大きな存在感を示していることはありません。

 民間企業ですから、政府の意向などの “しがらみ” とは無関係です。高額な鉄道車両を日本の私鉄企業に売りたい欧州企業の後押しをする目的で、車両の購入義務をEPAに盛り込もうとすることは想定しておかなければなりません。

 鉄道車両の購入を決定する権利は日本の私鉄企業側にある訳ですから、そうした要望を聞き入れる可能性はゼロだと明確に否定することが交渉を担当する日本政府の責務と言えるでしょう。ラッシュの時間帯での使用に耐えられない鉄道車両の価値はゼロどころかマイナスなのです。

 

 企業が “対等な立場” で競争できる市場を形成する経済協定であるなら、EUとのEPAに反対する勢力は少数派となるでしょう。

 要は、交渉の内容次第です。TPPと同じ経済条件なら賛成派が多くなると思われます。しかし、相手の政治的イデオロギーに譲歩した条項が明るみに出ると、反対派の方が優勢になると考えられます。

 経済の枠組みを共通化することが目的であり、相手の政治的主張に賛同することは経済協定に含めるべき内容ではないことを自覚した上で交渉を行う必要があると言えるのではないでしょうか。