イギリスのEU離脱を問う国民投票がいよいよ本格化 その争点とは?

 イギリスのキャメロン首相が EU に突きつけていた改革案に対して、EU 首脳会議で全会一致で合意したことにより、離脱の賛否を問う国民投票の争点が見えてきました。

 NHK を始めとするメディアは6月23日(木)に実施されると伝えています。では、現状について整理することにしましょう。

 

 イギリスの国民投票で問われるのは「イギリスは EU のメンバーとして留まるべきだと思いますか?」というもので、有権者の賛否を問う形になっています。

 質問の文言が少し変化しただけでも、投票結果に影響が出るとも言われています。したがって、どういった文言になるのかも争点になる可能性があると思われます。

 もともとキャメロン首相は EU の官僚体質に批判的であり、「改革する気がなければ離脱する」と宣言してきた経緯があります。イギリスも財政再建によって自国は緊縮財政が敷かれている状態なのですが、EU は “予算増額” を理由にさらなる支出を求め続けたことで関係が一層悪化したことも原因として指摘されています。

 イギリスは EU に対して歳出超過の状態ですから、国としてポジティブな印象は持っていません。「イギリス政府が集めた税金を EU が補助金という形で中東欧諸国に配分している」ことが実状なのです。

 

 そのような中でキャメロン首相がブリッセルで以下の項目について合意に達したと BBC が報じています。ここで、ポイントなのはこれらの項目はまだ実施されていないということです。

 イギリスが国民投票で EU に留まる場合、次の変更が変更されることになります。

  • 児童手当:イギリス国外で生活する移民の子供に対する児童手当額が母国の生活水準額に減額
  • 移民への社会保障:イギリスは新規移民に対し4年間の社会保障の給付停止が可能になる。 “緊急ブレーキ” は移民の水準が例外的な場合に利用できるが、7年以内に解除しなければならない。 その例外はない。
  • ユーロ圏:通貨ポンドを維持でき、EU 域内との取引で差別される心配はない。ユーロ加盟国救済に 費やされたイギリスの資金は払い戻される。
  • シティ(ロンドン)の保護:イギリスの主要産業である金融を守るため、 EU の規制やルールに対するセーフガードを保有する。
  • 国家主権:イギリスは他の加盟国とは異なり、政治・経済の統合対象ではないことを明文化し、 EU 条約変更に組み込む。
  • 競争力:すべての EU 機関とその加盟国に対し、“着実な実行と域内市場強化にむけた努力” を 呼びかけ、“より良い規則に向けた具体的措置” を採る。
  • 議会に対するレッドカード:EU 加盟国議会で 55% の賛成があれば、EU の法律を改変 または廃案することができる。
  • 移動の自由に対する制限:偽装結婚対策の一環として、EU 圏外出身者が EU 圏内出身者と 結婚した際に自動的に与えられていた移動の自由に対する権利を付与しない。 彼らに前科がなくとも、セキュリティ上のリスクと考える人を排除するための力になるからである。

 国民投票の争点は「キャメロンが提示した案で、EU 離脱を思いとどまるかどうか」と言い表すことができるでしょう。

 現在まで、これらの項目が問題視されて来なかったことの方が驚きだと言えるのではないでしょうか。ただし、キャメロン首相が合意した内容であっても、先行きは不透明であることに変わりありません。

 

 移民流入に対する “緊急ブレーキ” は手に入れましたが、肝心のブレーキの効き目に疑問があるからです。

 “社会保障が充実している” という印象が強いイギリスに対し、移民の流入圧力が一向に収まらなかった場合、残された手は「EU からの離脱」だけになります。また、キャメロン首相は児童手当をイギリスから国外送金することを禁じたいと考えていましたが、その国の生活水準額にまで減額するに留まりました。

 そのため、イギリス国内で不満の火種が燻り続けることになるでしょう。イギリスの動きに最も反発しているのは東欧の EU 加盟国(ポーランド、ハンガリー、チェコなど)です。これらの国々から“EU 移民” としてイギリス国内で働けば、イギリスの社会保障を利用でき、税額控除や児童手当の受給と至れり尽くせりだったからです。

 例えば、物価の高いイギリスの水準で児童手当が受給できるとそれらの国々での国内消費が増加します。つまり、児童手当という名の実質的な経済援助と同じような働きをしていたのです。

 

 イギリスからすれば、明らかに迷惑なフリーライダーです。イギリス政府が自国の国益を捨ててまで、他国の国益を優先する必要性は存在しないでしょう。

 また、キャメロン首相が提示した EU との合意案を EU が着実に履行しなければ、離脱派が国民投票で勝つことがより現実的になります。

 これからが離脱の是非を問う本番になると言えるのではないでしょうか。