トルコが「国境を開く」と警告し、EUを揺さぶりをかける

 トルコのエルドアン大統領がヨーロッパ議会が「トルコのEU加盟交渉凍結」を求める決議を採択したことに対し、「ヨーロッパを目指す移民・難民に国境を開く」と警告したとNHKが伝えています。

 EU側が当初の合意事項をサボタージュしているのですから、トルコ側の怒りは当然のこと。リベラルが掲げた理想を押し付けようとした “ツケ” を払うことになるのはこれからが本番と言えるでしょう。

 

 ヨーロッパ議会は24日、トルコ政府がことし7月のクーデター未遂以降、強権的な姿勢を強めているとして、トルコのEU加盟交渉を凍結するよう、加盟各国に求める決議を採択しました。

 これに対し、トルコのエルドアン大統領は25日、イスタンブールで行った演説で、「EUがさらなる動きに出れば、国境の門は開かれるだろう」と警告し、難民や移民のヨーロッパへの流入を抑えるためのEU側との合意を破棄する可能性に言及しました。

 

 EU側が対応を誤ったのはトルコで発生したクーデター未遂事件でのことです。

 “独裁者エルドアン” に対し、軍部(の一部)がクーデターを実行。しかし、トルコの民衆はエルドアン大統領を支持したため、クーデターは失敗に終わったという事件でした。

 

 この事件で最も糾弾されるべきはクーデターを起こした軍部です。民主主義に基づく選挙で選ばれた政権を軍事力で転覆させようとしたですから、異論はないはずです。

 ところが、EUは「エルドアン大統領のやり方が強権的」だとして、クーデターを起こした側に肩入れするスタンスを採り続けているのです。

 もし、トルコ国民がエルドアン大統領にNOを突きつけているなら、クーデターで政権は倒されていたことでしょう。しかし、国民から支持を得たのはエルドアン大統領であり、クーデターを主導した軍部ではありません

 クーデターを主謀した組織を野放しにすれば、前回よりも過激にバージョンアップされた形での2度目・3度目のクーデターが起きる土壌が残ることを意味します。

 トルコ国内のクーデターでヨーロッパに損害を被ることは皆無に近いはずです。それに対し、最も大きな被害を受けるトルコが首謀者や主謀組織に対して厳しい対処を採ることは当たり前です。その権利すら完全否定するEUのスタンスはトルコで受け入れられることはないでしょう。

 

 6月末までの期限とされていた「トルコ国民のEUへの渡航ビザ免除」は実現されておらず、難民引き受けの交換条件であった「EU加盟の交渉加速」は交渉凍結を求める決議が採択されているのです。

 「トルコはEUの決定に逆らわない」と考える方が安易すぎることです。むしろ、報復に出る可能性を高めており、ヨーロッパ行きを希望する移民・難民に対して国境を解放する動きを本格化させるでしょう。

 これによる影響を最も受けるのは間違いなくドイツのメルケル首相です。

 社会福祉制度が整ったイギリスはEU離脱を決めており、難民のさらなる受け入れ対象とはなりません。また、2017年に大統領選が行われるフランスも、トルコが国境を解放するのであれば、“極右” のマリーヌ・ルペン候補にとっては大きな追い風となるでしょう。

 しかし、ドイツはメルケル首相が不人気とは言え、キリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)の大連立が過半数割れを起こすとは想像しづらく、政権が継続する可能性が高いのです。

 

 トルコが「国境の解放」というカードを切れば、ヨーロッパ中の移民・難民問題という “火薬” に飛び火することでしょう。それによって大混乱が起きる可能性は十分すぎるほどに存在しています。

 EUがトルコから一方的に “オイシイ思い” を享受してきた関係は終わり、対等な負担が求められる関係へと移り変わることを余儀なくされるでしょう。トルコにはヨーロッパ行きを希望する移民・難民を自国の予算を費やしてまで国内に留めておく必要性は皆無なのです。

 フリーランチは存在しないことを自覚できず、自らの価値観を相手に一方的に押し付けるヨーロッパのリベラルたちの欺瞞がこれから浮き彫りになると言えるのではないでしょうか。