公共インフラの老朽化が一気に押し寄せる現状では「費用対効果の悪すぎる橋やトンネルは撤去」の判断をせざるを得ない

 日経新聞によりますと、老朽化によって「橋の架け替え」ではなく「橋の撤去」を決断した地方自治体が出てきていることを記事にしています。

 この流れは続くことになるでしょう。なぜなら、橋やトンネルを維持・管理する地方自治体の行政予算が持たないからです。ごく少数の地元住民の利便性を保つために、他の住民に対して多額の費用負担を求めることは年々難しくなっていると言えるでしょう。

 

 日中戦争が開戦した1937年に完成し、取り壊される日までの約80年間、村が管理する橋の中で最長を誇った「我々自慢の橋」。しかし2016年の点検で、主桁の鉄筋露出など著しい劣化が見つかった。

 村の人口は県内自治体で最少の2300人。65歳以上の高齢化率は50%を超す。利用者の回復が見通せないなか、改修や架け替えの余力はない。村長だった小林悦次(64)は廃止を決断せざるを得なかった。「たとえ架け替え費用を捻出しても、維持管理費まで負担し続けられない。痛みを強いる結果になったが、迂回路が確保されている以上、少数のため、その他多数が負担する選択肢は取れない」

 

秋田県上小阿仁(かみこあに)村が行った “苦渋の決断” に習う自治体が出てくることだろう

 上小阿仁村は村が管理する「上小阿仁橋」の撤去を決めました。利用者数が少なく、改修や架け替えをする行政予算の余力がないことが大きな理由でした。

 迂回路がある以上、多額の架け替え費用と維持管理費用を出し続けることは難しいと言わざるを得ないでしょう。

 なぜなら、行政予算は有限だからです。土木関連の予算では「橋やトンネルの管理」だけでなく、「道路全体の管理」が対象です。そのため、『利用の少ない老朽化した橋』を改修したり、架け替えたりする予算を付けることは簡単ではないのです。

 したがって、迂回路が用意されていることを理由に「撤去」を決断するのは止むを得ないと言えるでしょう。

 

過疎化が進行する地方では「すべての公共インフラ」を維持し続けることは非現実的

 地方や田舎にも人手がいた時代は公共インフラを維持するだけの予算を拠出することは可能でした。しかし、都市部に人口が集中するようになった現代では過疎化が著しい地方の自治体が費やすことができる予算は限られています。

 したがって、耐用年数が限界に近づいている橋やトンネルは「改修や架け替えの予算を費やすか」それとも「撤去するのか」の判断を迫られることになっているのです。

 公共インフラは適切な維持管理を行っていなければ、急激に劣化してしまいます。そのための予算を十分に出すことすら難しくなりつつあるのですから、優先順位を付けた上でシビアに管理せざるを得ません。

 「20人前後の日常生活における利便性を維持するため」との理由で億単位の予算を計上することは他の地域住民から理解を得ることは簡単ではありません。記事にある「少数のため、その他多数が負担する選択肢は取れない」との小林村長の発言は重いと言えるでしょう。

 

寿命を迎えつつある橋やトンネルをどのような順序でメンテナンスしていくのかが注目点

 ただ、寿命を迎えつつある橋やトンネルがあるのは田舎だけではありません。高度経済成長期に全国各地で整備が進められた橋やトンネルが徐々に耐用年数を超えることになるからです。

 高度経済成長期と同じペースで改修工事ができるなら、実施すべきでしょう。しかし、費やすことができる予算額が異なるため、優先順位を付けた上で徐々に行っていくことが最も現実的な対策です。

 それでも社会保障費が行政予算の大部分を占めており、公共予算は不足がちでありことは否定できません。「無い袖は振れない」のですから、撤去という厳しい決断をする自治体が増えることが予想されます。

 都市部などへの人口集中が止まる気配はないため、人口減少に苦しむ田舎や郊外では幹線道路から準備に改修・架け替え工事を行っていくことが合理的と言えるのではないでしょうか。