田中康夫・元知事が掲げた『脱ダム宣言』を採用した長野県、千曲川の氾濫による大被害を受ける

 台風19号がもたらした大雨による影響で長野県を流れる千曲川が複数の箇所で氾濫し、流域の広い範囲で大きな被害が出ていると NHK が伝えています。

 長野県にとって皮肉なのは田中康夫・元知事が掲げた『脱ダム宣言』を採用していたことでしょう。治水ダムがあれば千曲川に流れ込む水量を制限できただけに被害を小規模にできた可能性があったからです。

 「長野県が『ダムを使わない治水対策』をどのように計画・実行していたかは議論のテーマにしなければならない」と言えるはずです。

 

 台風19号による大雨で、長野県内を流れる千曲川は長野市や千曲市などで氾濫し、流域の広い範囲で浸水被害が発生しています。堤防が決壊した場所もあり、自治体などが近くに住む人たちに命を守る最善の行動を取るよう呼びかけています。

 

長野県内の主な盆地周辺に降った雨は千曲川に流れ込む

 まず、県境を山で囲まれている長野県は盆地が中心街となっています。主要な盆地は長野・松本・佐久・諏訪・伊那がありますが、長野・松本・佐久は千曲川水系です。

 つまり、「長野県の北半分で降った雨は千曲川に流れ込む」という状況にあります。

 ここで問題となるのは「河川の流下能力には(排水管と同じで)限界がある」ということです。長野県は『脱ダム宣言』で「千曲川に流れ込む水量をコントロールするすること」を放棄しました。

 治水対策に用いられるのはダムだけではありません。そのため、「ダムは不要である」との事態も起こり得る訳ですが、「ダムが担うはずであった『治水機能』をどのように代替させていたのか」は説明されるべきことと言えるでしょう。

 

治水ダム等で「河川への流入」を時間調整しない限り、盆地周辺に降った雨は一気に流れ込む

 自然豊かな山林は治水能力を保持しています。ただ、これは “ハゲ山” と比較した場合であり、地中に吸収できなかった降水は河川へと流入することになります。

 盆地の多い長野県では「(県中央部よりも北での)降水による流入量が千曲川の流下能力を上回らないようにすること」が極めて重要な治水対策と言えるでしょう。

  • 降水量の正確な予想を可能にするデータ解析
  • 治水ダムなどを活用した流入量の適切な管理
  • 流下能力の維持・拡大のための河川改修

 河川の氾濫による被害を最小限にするには上記の3点を上手く組み合わせることが重要です。しかし、長野県は『脱ダム宣言』で「河川への流入量の管理」を放棄してしまっていたため、「流下能力の拡大」しか選択肢が存在しない状況でした。

 河口に近い下流域では「流入量の管理」が重要であることは実感しにくいでしょうが、山間部が多い河川の上流では水嵩の変化は大きくなります。それを軽視していたツケが回ってきたと言わざるを得ないでしょう。

 

長野県の地元紙・信濃毎日新聞は「県による治水対策の方向性は適切だったのか」を検証すべきだ

 おそらく、ダム建設反対派は「千曲川の流下能力を増やしているべきだった」と主張し、逃げを打つでしょう。しかし、この弁明では不十分です。

 なぜなら、平成18年(2006年)7月に発生した洪水を受け、河川改修工事が平成27年(2015年)に事業(PDF)が実施されているからです。事業を実施するまでには調査・計画立案・予算承認と複数のプロセスを経るため、国交省はやれることをやっています。

 その一方で、長野県は治水能力を備えるためのダム建設には否定的だったのですから、「ダムが持つ治水能力をどのように代替させる考えだったのか」は明らかにされるべきです。その上で「長野県が考える代替策は想定どおりに機能していたのか」も査定されるべきでしょう。

 この役割は長野県の地元紙で県内トップシェアを誇る信濃毎日新聞が担うべきです。それが報道機関の役割だからです。

 

 計画を止めたのなら、根拠が必要です。また、代替策が講じられなかったことで損害が発生していたなら、その責任も追求されるべきと言えるのではないでしょうか。