朝日新聞が主張する「化学兵器使用の実態調査」を実施したところで、シリアの内乱は終わらない

 アメリカがシリア・アサド政権に対し、化学兵器を利用したことを理由にミサイル攻撃を実施しました。

 この動きに対し、朝日新聞が4月8日付の社説で「無責任な単独行動」と批判しています。しかし、使用実態の調査をしたところで、何の意味もないでしょう。なぜなら、オバマ政権時代の対応と同じだからです。

 

 化学兵器の問題については、国連を主体に早急に調査を始めるべきだ。

 現場は、シリア北西部の反体制派の支配地域。子どもを含む100人以上が死亡した。断じて許せない戦争犯罪である。

 アサド政権は、4年前に猛毒サリンを使った疑惑が発覚し、その後、ロシアの説得で化学兵器の廃棄を表明した。だが、国連はその後も政権軍による使用を確認している。

 今回も否定するなら、アサド政権は国際調査に全面協力しなくてはならない。ロシアも反対する理由はないはずだ。

 

 「アサド政権は4年前の2013年にサリン使用疑惑が発覚し、その後も使用していると国連が確認した」と社説で述べています。

 朝日新聞が求める国連の調査は実施され、クロと見なされたと朝日新聞は社説で書いているのです。廃棄を表明した後でも、平然と化学兵器を使う政権に対し、「戦争犯罪だ」と主張しても、効果はゼロです。

 効果があるなら、化学兵器を廃棄することを表明した後に使用する意味がないからです。

 

シリア政府に化学兵器を使う必要性はないが、敵対者に「絶望」を与えられる

 アメリカがアサド政権容認に流れたことで、「国際的な反発を招く化学兵器を使う必要性はない」と考えることが自然でしょう。しかし、大事な前提条件を見落としています。

 1つはアサド政権が国際社会からの “鼻つまみ者” であるということ。味方となってくれる国は非常に限定的なのです。そのため、バッシングされた所で「政権に反する外国勢力の言いがかり」と開き直りを見せる要因となるのです。

 もう1つは、反アサド政権派に絶望感を与えられるということです。「サリンのような化学兵器を使ったとしても、国際社会は口先だけで反政府勢力を助太刀することはない」ことを見せつけることは絶大な効力を発揮するはずです。

 しかし、トランプ政権はオバマ政権とは異なり、レッドラインを越えた時の行動を起こしました。これが、アサド政権にどのような影響を与えるのかが今後の注目点になるでしょう。

 

トランプ政権は口先だけのオバマ政権との “違い” を示せるのか

 「化学兵器が使われたかの調査」を行うことは必要でしょう。しかし、「化学兵器の使用が認められた後の対応」はさらに重要なことなのです。

 国連の場でどれだけ議論をしたところで、アサド政権の肩を持つロシアが都合の悪い決議には拒否権を発動することは目に見えています。“合議制の欠点” が浮き彫りになっているシリア内戦ですが、国連決議を優先するほど、常任理事国が気に食わない事案には何も対応できなくなってしまうのです。

 拒否権を持つ常任理事国同士の利害が対立する中で、国際社会との協調がどれだけ非現実的な発想であるのかを朝日新聞は学ばなければならないと言えるでしょう。

 

アサド政権が再びレッドラインを越えた場合、どう動くのかがポイントになる

 少なくとも、アサド政権が化学兵器をオバマ政権時代と同様に使うことには躊躇することになるでしょう。なぜなら、報復攻撃を受けたからです。

 ただ、次に化学兵器が利用された際にトランプ政権が報復行動を起こさなければ、元の木網になってしまいます。報復攻撃の対象をシリア軍にすることも可能であり、二の矢・三の矢が存在することを匂わせることは可能と言えるでしょう。

 「言葉」で解決できるのであれば、オバマ政権時代にシリア問題は解決していたはずです。しかし、現実には「言葉」だけでの解決は不可能であり、発言内容を裏付ける軍事力や経済力が不可欠なのです。

 現実的な解決アプローチを採ることに理解を示し、無責任な言論に対する批判が強まらない限り、社会が平和になることはないでしょう。トランプ政権によるシリア攻撃は国際法に違反することですが、化学兵器を利用する政権を国際法に基づいて止めることができないのですから、次善の策として評価すべきなのではないでしょうか。