市場からの自由撤退すら認めない国が主導する『一帯一路』に魅力的な部分はないだろう

 中国の抱く野望である『一帯一路』のフォーラムが北京で開催されたと NHK が伝えています。

 北京支局を維持したい日本のメディアは好意的に報じることでしょう。しかし、ほとんどの企業にとっては魅力的なビジネスモデルではありません。そのことを十分に踏まえておく必要があるはずです。

 

 「一帯一路」は、習近平国家主席が提唱したアジアとヨーロッパをつなぐ巨大な経済圏構想です。中国政府が、北京で初めて開いた国際会議、「一帯一路フォーラム」には、29か国の首脳を含む130余りの国の代表団などが参加し、日本からも、自民党の二階幹事長らが出席しました。

 開幕式で演説した習主席は、「『一帯一路』は平和への道だ。協力とウィンウィンの新たなモデルをつくりだそう」と述べました。そして、かつてのシルクロードが、各国の経済を補完し合い、発展につながったことを引き合いに出し、国際的な鉄道や港湾といったインフラの整備などによる貿易や投資の拡大を呼びかけました。

 

 中国としては「自分たちのビジネスルール」を周辺国に波及させるメリットは大いに存在するでしょう。しかし、ウィン・ウィンの関係が構築されることは非常に稀なことです。

 なぜなら、利益が一致することはあっても、損害まで一致することはないからです。利益を確定させる術が制限されているのであれば、魅力は乏しくなります。

 中国市場に存在するリスクが周辺国にまで広がることになる訳ですから、歓迎する企業は少ないと言えるでしょう。

 

 中国の狙いは「成長率を根拠に、インフラ費用を他国や企業に出させること」です。サッカー日本代表の本田圭佑選手が所属する ACミランを買収する際に中国からの資金持ち出しが厳しく制限されたのですから、自由に使える資金には現状でも限りがあると見ておくべきでしょう。

 “チャイナ・リスク” は「資金の持ち出しの難しさ」だけではありません。事業を畳もうとした場合、ボッタクリのように投資した資産を没収されるのです。そのような危ないエリアが広がることを歓迎する企業が民間レベルでどれだけ存在するでしょうか。

 現地政府や企業に資産を(将来的に)売却することができ、損失のリスクが極めて低いインフラ設備への投資ぐらいに留まることでしょう。また、ハブ機能を持った大型港湾設備は地域に1箇所で十分であり、複数国で開発プロジェクトを動かしてしまうと、不良債権に化けるリスクがあるのです。

 

 『一帯一路』を称賛するのはマスコミやコンサルタント企業に限定されると思われます。なぜなら、これらの業種は “チャイナ・リスク” が実質的にゼロだからです。

 コンサルタントは企業にアドバイスをするだけ。「中国が儲かります」と10年前に売り込みをかけていましたが、今では「中国市場からの撤退」を取り扱う状況です。マスコミは中国国内に支局を置いていますが、撤退する際のハードルは極めて低い業種です。

 コンサルタント企業もメディア企業も、資産と言えば従業員ぐらいです。「業務を止めれば、儲けは生まれず、資産はない」と開き直れるため、中国規格の市場が広がったことによる経営への影響は生じない立場にいることを忘れてはなりません。

 

 AIIB (アジアインフラ投資銀行)による資本調達も軌道に乗っていない状況です。日本やアメリカが参加していない現状では良い格付けを得ることは難しく、資金繰りに苦労することになると予想されます。

 “ユーロ債” は存在しないのです。ヨーロッパ諸国が AIIB の格付け取得のために団結することは非現実的と言えるでしょう。『一帯一路』に好意的なのは「中国の成長度を他者にそそのかすことで利益を得られる一部」だけであることを覚えておいて損はないと言えるのではないでしょうか。