防衛費の負担増に理解を示すNATOとアメリカにタダ乗りしたいEU

 トランプ大統領の発言ばかりがクローズアップされていますが、アメリカとの防衛費負担の割合に対し、ヨーロッパが判断を迫られています。

 アメリカのマティス国防長官がベルギーで開催されたNATOの国防相会議に出席した際にNATO加盟国に負担増を求めたとNHKが伝えています。ただ詳細を確認すると、「合意事項を守る気があるのか」という確認を行ったと述べる方が適切と言えるでしょう。

 

 マティス長官は、加盟する28か国が3年前にそれぞれ防衛費をGDPの2%に引きあげると合意したにもかかわらず、アメリカを含め5か国しか達成していないと指摘し、「アメリカの納税者はこれ以上、不均衡な負担を負うことは出来ない」と述べました。

 そのうえで「アメリカの同盟への関与が抑えられることを見たくなければ各国は資金的な支援を示す必要がある。現状のままということがあってはならない」と述べ、加盟国に年内に防衛費の増額に向けた具体的な取り組みを示すよう強く求めました。

 

 「防衛費をGDP比で 2% に引き上げろ」と要求した “言い出しっぺ” はトランプ政権ではありません。

 オバマ政権の時代にNATO加盟国はGDP比で 2% に引き上げることに合意しているのです。しかし、ほとんどの加盟国で合意事項は守られておらず、合意遵守に対する具体的な取り組みすら行われていない状況なのです。

 このような有様なのですから、アメリカが「合意事項を守る気があるのか、守る気がないなら関与の度合いを低くする」との姿勢を鮮明にすることは当然のことと言えるでしょう。

 

 多国間の協定であるNATOで防衛費の負担額増加を合意しておきながら、特定国への “しわ寄せ” を意図的に無視し続ける状況はあまりに虫が良すぎることです。

 NATOのストルテンベルグ事務総長もそのことは理解しており、「もっともなメッセージだ。すべての加盟国が応分の負担をすることはかねてからの合意事項で、重要性をよく理解している」と述べ、合意遵守に前向きの姿勢を示しています。

 ところが、「この合意事項を無視しろ」と主張する組織が存在します。

 

 それはEUです。欧州委員会のユンケル委員長はドイツ・ミュンヘンで次のように述べ、防衛費がGDP比で 2% に引き上げることに反対の意を主張したのです。

 ユンケル委員長はミュンヘンでの講演で「米国はこのメッセージを何年も前から送っている。私はわれわれがこの要求に屈することに強く反対する」と述べた。

 委員長は、ドイツが防衛費の対GDP比を1.22%から2%に引き上げた場合に財政黒字を維持できなくなると分かっているとした上で「米国が安全保障の概念を軍備に狭めている点は好ましくない」と批判。

 「財政黒字を維持できないなら、反対」と非常に自己中心的な主張を展開しているのです。また、「開発支援や人道支援も安全保障だ」と主張し、防衛費をGDP比で 2% に増額することに反対しています。

 自分たちが財政赤字になりたくないから、防衛費の負担をアメリカに押し付けたいという本音が思わず出たということでしょう。アメリカが求める防衛費の増額に応じてしまうと、NATO加盟国は予算編成を見直すことになります。

 その結果、EUへの分担金の支出が見直される可能性が極めて高くなり、“高給官僚のパラダイス” と化しているEUに対する風当たりが強くなることは予想できることです。それを避けるため、EUはNATO加盟国が予算割合の変更を行わないよう要求しているものだと考えられます。

 

 仮にEUのロジックが通用するなら、日本も多額の資金を “防衛費” につぎ込んでいることになります。

 ODAによる “開発支援” やシリア・イラク難民に対する “人道支援” がすべて防衛費としてカウントできるということになるからです。この主張はさすがに支持されることはないでしょう。

 国防に寄与していないからです。途上国の開発支援を行う理由は経済発展を進めることが目的のはずです。

 日本海に向けて弾道ミサイルを発射する北朝鮮は洪水による “人道支援” を求めていますが、「北朝鮮に対して “人道支援” を行うことが日本の防衛にどのように貢献しているのか」ということをEUのユンケル委員長は説明すべきです。

 ですが、説明すらできないでしょう。ブリュッセルの “象牙の塔” に引きこもっている政治屋は現実の世界に対する興味など存在しないのですから。

 

 日本の場合はNATOのような共同体に属していないため、アメリカとの日米同盟における二国間協定での負担額が適切であるかを議論する時が来ることでしょう。

 防衛上の負担に比例する形で費用面での割合を算出しやすい状況ですので、算出方法を合意することが最優先事項となると思われます。逆にヨーロッパと比べて不利な面は防衛産業に携わる能力を持った企業が限定的であり、メディアが否定的な論調を展開する傾向が強いため、価格競争が起きないことと言えるでしょう。

 複数企業が入札に応じる状況が一般化していれば、自衛隊のコストパフォーマンスは改善します。防衛費を削減する要因にもなるのですが、そうした動きを認めたく無いマスコミがいる以上、防衛費を下げることは困難であることを受け入れる必要があるのではないでしょうか。