「在韓米軍の撤退を禁じる法案」がアメリカ議会下院に提出も、提出議員が8名に過ぎず法案内容にも不安が残る

 NHK によりますと、トランプ大統領が米朝首脳会談で「在韓米軍の規模縮小・撤退」を交渉のカードにすることを懸念したアメリカ議会下院の与野党8議員が『在韓米軍の撤退を禁じる法案』を提出したとのことです。

 ただ、提出された段階であり、承認されたのではありません。また、法案内容も “抜け穴” が存在している状態であるため、牽制になるかも怪しいと言えるでしょう。

 

 トランプ大統領は就任以来、在韓米軍は維持費がかかりすぎるとして撤退する可能性があると発言してきました。

 こうした中で、アメリカ議会下院の与野党議員8人が、30日、在韓米軍の撤退を禁じる法案を提出しました。

 (中略)

 このタイミングで法案が出されたのは、来月の米朝首脳会談でトランプ大統領が北朝鮮から非核化に向けた具体的な措置を引き出すために、在韓米軍の縮小や撤退を取り引きの材料にすることがないようけん制するねらいがあります。

 ビジネスマンで「コストパフォーマンス」に対してシビアなトランプ大統領は「在韓米軍の維持費」を疑問視する姿勢を見せています。そのため、駐留経費の負担を米韓両政府で交渉を続けているのですが、合意に達していません。

 両国が合意できないと、規模縮小や撤退が現実味を帯びるため、それを禁じる法案が議会に提出される流れになったと考えられます。

 

向こう5年の軍事費を前年比 7.5% で増加させる予定の一方で、在韓米軍の駐留経費負担増に難色を示す韓国

 まず、認識しておく必要があるのは「韓国が不穏な動きを見せている」ということです。韓国・国防部は向こう5年の方向性を定めた『2019~2023年国防中期計画』を発表しましたが、軍事費が前年比 7.5% で伸び続けると予定されているのです。

 韓国国防部は11日、向こう5年間の軍事力建設・運営方向の青写真となる「2019~2023年国防中期計画」を発表した。

 (中略)

 年ごとの国防費は19年が46兆7000億ウォン、20年が50兆3000億ウォン、21年が54兆1000億ウォン、22年が57兆8000億ウォン、23年が61兆8000億ウォンと策定された。同期間の年平均の国防費増加率は前年比7.5%と、直近10年間の年平均増加率(4.9%)を大きく上回る。

 軍事予算が確定するには「国会審議を経る必要」がありますが、『自主防衛』の方針に重きを置くムン・ジェイン政権で予算が削減されることはないでしょう。

 一方、アメリカ政府との間で交渉で揉めているのは「負担額が9600億ウォンから1兆1100億ウォンに増加すること」です。伸び率は +15% と多いのですが、絶対値では1500億ウォンです。年間3兆ウォン超の伸びが予定されている軍事費の 5% に過ぎないのです。

 そのため、難色を示す韓国政府に対し、アメリカ政府の態度が硬化する原因になっていると言えるでしょう。

 

アメリカ議会に提出された法案は「10% 以上の規模縮小をするなら、2019年度の国防予算は使わせない」というもの

 アメリカの議会下院に提出された法案は成立すれば、一定の “歯止め” として機能すると予想されます。ただ、抜け道がある状態のため、アリバイ作りの面も否定できない状況です。

  • 2万5000人規模の在韓米軍を2万2000人以下に縮小する場合、2019年度の防衛予算を使うことを禁止
  • 「北朝鮮が『検証可能かつ不可逆的な非核化』を達成した」と上下両院の外交委員会・軍事委員会に証明できるなら、予算の利用は可能

 裏を返せば、「10% 弱の縮小なら、トランプ大統領の独断で決定しても良い」と言えます。また、2020年以降など数年後に撤退することは可能であるため、北朝鮮を非核化させるための代償として使うことが可能になっているのです。

 基地は「軍の利権」であることから、縮小や撤退は軍からの反発を招きます。退役軍人などの組織票もありますし、支持者に向けたアピールという面も否定はできないと言えるでしょう。

 法案が効力を持つのは「法律として成立した後」です。提出しただけの現状では「牽制」はできても、「歯止め」としては機能していないのです。議会下院で成立するための賛同者が集まらなければ、提出した議員らのパフォーマンスで終わる可能性も視野に入れておく必要があるのです。

 

韓国の軍事費は2021年には日本の防衛費を上回ることが濃厚

 自主防衛の姿勢に突き進むムン・ジェイン政権ですが、韓国の軍事費が日本の防衛費を上回ることが現実味を帯びていることを直視しておかなければなりません。

表:日韓両国の軍事・防衛費の推移予定(9.8円=100ウォン)
日本 韓国
2019年 5兆2600億円
(※ 過去最高額)
4兆5766億円
(46兆7000億ウォン)
2020年 (未定) 4兆9294億円
(50兆3000億ウォン)
2021年 (未定) 5兆3018億円
(54兆1000億ウォン)
2022年 (未定) 5兆6644億円
(57兆8000億ウォン)
2023年 (未定) 6兆564億円
(61兆8000億ウォン)

 日本は2019年の防衛費として過去最高の5兆2600億円を予算として計上しています。金額は大きいとの印象を受けるかもしれませんが、対 GDP 比で 1% に抑えられており、これは先進国の半分以下の水準です。

 一方の韓国は2019年は約4兆6000億円の軍事予算なのですが、今後5年間は前年比 7.5% で伸びる計画が示されており、2021年には日本の防衛費を上回る軍事費が計上されることでしょう。

 北朝鮮と向き合うだけなら、軍事費でこれだけの巨額予算を韓国が計上する意味はありません。潜水艦などによる海洋進出を活発化させようとしており、韓国が日本を『仮想敵国』と位置づけて動いていることは予算面からも読み取れることです。

 日本の防衛費に疑念を呈するのであれば、自衛隊の哨戒機に火器管制レーダーを照射した海軍の駆逐艦を保有する国の軍事費が今後 3〜4 年で日本の防衛費を上回る現実に目を向けた上で議論を行うべきでしょう。国内政治だけで国防ができるのはでないという現実に目を向ける必要があるのではないでしょうか。