ムン・ジョンイン(文正仁)特別補佐官の「平和協定後、在韓米軍の駐留正統化は困難」との主張が尾を引く

 韓国ムン・ジェイン(文在寅)大統領の外交政策を右腕的立場で支えるムン・ジョンイン(文正仁)特別補佐官の主張による余波が大きくなっています。

 発端はムン・ジョンイン特補がアメリカの外交専門紙に寄稿された内容です。その中で「在韓米軍の駐留」に疑念を呈したのですが、それが尾を引く形になっているのです。

 

 文正仁(ムン・ジョンイン)大統領外交安保特別補佐官が先月30日(米国時間)、「平和協定締結後は、韓半島(朝鮮半島)における在韓米軍の駐留を正当化しにくくなるだろう」と主張した。米外交専門紙「フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)」に寄稿した「南北首脳会談の進展と約束」というタイトルの文章を通じてだ。文特別補佐官はこの寄稿文で「在韓米軍の縮小や撤収について、韓国の保守野党勢力が強力に反対するだろう」としながら「これは文在寅(ムン・ジェイン)大統領にとっては重大な政治的ジレンマになる」と述べた。

 驚くような内容が記載されている訳ではありません。韓国・左派勢力の “偽りのない本音” が記載されているに過ぎないからです。

 ただ、執筆者は「ムン・ジェイン大統領の外交・安全保障における右腕」と言える人物です。そのような立場にある人物が「在韓米軍の駐留を正統化することは難しい」との内容を寄稿した事実は極めて大きいと言えるでしょう。

 

小説『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』のストーリーが現実味を帯びる

 ムン・ジョンイン特別補佐官の寄稿文により、“ウリナラ・ファンタジー” と一部で揶揄されていた小説『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』のストーリーが現実に起きる可能性が高まったと言えるでしょう。

  1. 韓国と北朝鮮は「年内に平和協定を締結する」と宣言済み
  2. ムン・ジョンイン特別補佐官が「平和協定締結後に在韓米軍の駐留を正当化することは困難」と寄稿
  3. 「北の非核化」より「在韓米軍の撤退」の方が先に起きる可能性
  4. 核兵器を保有する『南北統一朝鮮』が誕生?

 上記のシナリオは突拍子もないことではありません。「韓国政府が外交で示したこと」と「韓国政府の外交・安全保障政策において要職にある人物が示した考え」から導き出される実現性のかなり高いストーリーだからです。

 「どこまで本気なのか」を見極める必要はありますが、「現実に起きる可能性のあること」として対応策を講じておく必要があると言えるはずです。

 

慌てて “火消し” に走るムン・ジェイン大統領

 ムン・ジョンイン特別補佐官の寄稿に焦ったのはムン・ジェイン大統領です。大慌てで「在韓米軍は米韓同盟に関わる問題だ。平和協定の締結とは何の関係もない」とコメントを発表しました。

 ただ、“火消し” の効果は低いでしょう。なぜなら、ムン・ジェイン政権は「米韓同盟を軽視する行動」を採り続けてきた経緯があるからです。

  • 『戦時統制権』の返還に向けて動き出す
  • 日米韓の合同軍事演習を拒絶(2017年11月)
  • 日米豪印の『安保ダイヤモンド構想』を拒否(2017年11月)
  • アメリカ軍の原子力潜水艦の韓国寄港を拒否(2018年1月)

 ムン・ジェイン政権で上記を実施しているのです。同盟関係を損なう行為をしているのですから、火消しのコメントを読み上げたところで「今更感」が漂うだけと言えるでしょう。

 ちなみに、ムン・ジョンイン特別補佐官は今年の2月には「大韓民国の大統領は軍事主権を持っている。大統領が在韓米軍に出て行けといえば出て行かなければいけない」と述べています。肩書きがある以上、“個人的な見解” として擁護するには無理がある状況なのです。

 

「トランプ大統領が『在韓米軍削減の検討』をペンタゴンに指示」と NYT が報じる

 韓国側で持ち上がる「在韓米軍の撤退」に呼応する動きがアメリカで起きつつあります。5月3日付のニューヨーク・タイムズによりますと、トランプ大統領がペンタゴンに「在韓米軍削減の検討」を指示したとのこと。

 トランプ大統領は “割に合わない同盟” を放置せず、同盟国に「内容の見直し or 関係終了」を迫っています。

 NATO は「GDP の 2% を軍事費として拠出する」と合意し、関係を継続する道を選びました。NATO に突きつけられた『踏み絵』の前に今度は韓国が立たされているのです。どうなるかは韓国政府次第と言えるでしょう。

 ただ、韓国政府は「韓国の価値」をかなり高く見積もった外交戦略を展開しています。トランプ大統領はそこまで「韓国の価値」があるとは見ておらず、決裂になる可能性が高いという認識で日本政府は想定しておく必要があります。

 

日本政府にとっての最優先事項は「北朝鮮の完全非核化」である

 日本政府にとって、最優先事項は「北朝鮮の完全非核化」です。「米韓同盟の行方」よりも、「北朝鮮の核兵器がどうなるか」という点を最重要課題として取り組まなければなりません。

 他国が「『日本の国益』に配慮した政策を実施する」と想定することは現実的ではありません。そのような “お人好し政策” をするのは日本政府ぐらいでしょう。

 「韓国政府が在韓米軍の縮小を通し、北朝鮮と接近・一体化する」ことが現実味を帯びているのです。これが現実となった場合、「核兵器の保有状況」が日本の安全保障に大きな影響を与えることになります。そうならないための根回しを行っておく必要があると言えるはずです。

 具体的には「核兵器を持った『統一朝鮮』が誕生した場合、矛先を向けられるのは日本だけだろうか」と水面下で中国に囁くべきです。そうすることで、『統一朝鮮の暴走を懸念する中国』が核兵器の廃絶に協力的になってくれるでしょう。立場を容易に変更する国を野放しにするリスクに中国もさらされているからです。

 

 “話し合い” だけで「平和」が保たれる訳ではないのです。現実に起きる可能性がある突発的な出来事に対し、軍事面を含めたあらゆる対処策を速やかに実施することが可能な体制を構築していくことが重要と言えるのではないでしょうか。