日大とアメフト部父母会の思惑が一致し、関東学連からの処分軽減に向けて歩調を合わせることを確認

 日本大学アメフト部の選手が試合中に関西学院大学の QB に悪質タックルを行った問題で、関東学連は日大アメフト部に「今年度シーズン終了までの公式試合の出場資格停止」の処分を下しました。

 これに対し、日大アメフト部の父母会が「秋のリーグ戦での復帰を目指し、大学とともにチーム再建を行いたい」と述べたと NHK が報じています。これは明らかに順序を間違えており、火に油を注ぐ事態になると言えるでしょう。

 

 話し合いのあと取材に応じた保護者の代表は、抜本的な改革が行われることを条件にチームの処分が解除されることを踏まえ「秋のリーグ戦での復帰を目指して、大学側に対してチームの再建を一緒にやらせてくださいと伝え、大学側からも『ぜひ』ということだった。建設的に話を進めていくスタンスで復帰に向けてやれることをやっていきたい」と話しました

 父母会の思惑は「自分たちの子供のためにアメフトができる環境を取り戻すこと」でしょう。

 親として当然の考えですが、“チームの不正行為” が原因で処分を受けたのです。問題発覚時点と比較して、『抜本的な改革』が行われたことを示すことが先決です。

 そのためには相応の時間を要するものであり、現時点で「秋のリーグ戦での復帰を目指す」と宣言することは明らかに迂闊すぎると言わざるを得ません。

 

まずは「第三者委員会が規律ある調査に基づく報告書を提出するか」だ

 日本大学は「悪質タックル問題」を調査・報告するための第三者委員会を5月31日付で設置したと発表いたしました。

 勝丸充啓弁護士が委員長を務めるとのことですが、「どういった内容の報告書が提出されるか」が焦点と言えるでしょう。なぜなら、反則行為をした選手の主張と監督・コーチの主張が対立しているからです。

 選手側の主張は映像など状況証拠が次から次へと出てきますが、監督・コーチ側の主張は関東学連の聞き取り調査で「虚偽である」と突き返される始末です。

 第三者委員会は独立性や中立性に注目が当たりますが、「専門性も極めて重要である」という点を見落としてはなりません。アメフト知識の乏しい委員が「QB を潰せという発言は一般的であり、指示を間違って理解しただけ」と主張することになるからです。

 “日大が出して欲しい報告書” を第三者委員会が出す可能性があるだけに、どういった内容の報告書がいつ公表されるのかが注目点と言えるでしょう。

 

「2019年3月31日まで公式戦出場停止処分」の軽減に言及するのは時期尚早

 日大アメフト部も反則を行った選手も関東学連から「2019年3月31日まで公式戦出場停止処分」を受けています。ただ、両者ともに以下の処分解除要件が設定されています。

  • チーム:原因究明と抜本的な改革を行って十分な改善がされる
  • 選手:再発の危険が払拭されたことが確認される

 父母会が第三者委員会に「報告書を早く出せ」と注文を付けている理由は「処分解除に1歩近くから」でしょう。

 第三者委員会の報告書があれば、それを根拠に「原因は究明され、対策も講じた」と主張できます。『問題の幕引き』という点で「日大」と「アメフト部の父母会」の利害関係は一致していますから、処分解除という目標に向けて歩調を合わせて活動を行うことが予想されます。

 しかし、「秋のリーグ戦(=公式戦)出場を目指す」との発言は先走りすぎです。「4年生にとっては最後の年」などとの “泣き落とし” が使われることも想定されますが、再発防止策すら定まっていない状況では新たな批判を招くだけであることを自覚しなければなりません。

 

7月中に第三者委員会からの報告書が発表されれば(所用時間的には)上出来

 日大の第三者委員会は「反則行為に係る事実確認」と「大学のアメフト部に対するガバナンス検証」の2点に対する調査を行う必要があります。その上で「原因究明と再発防止策」を行う訳ですから、時間を要する前提で見ておかなければなりません。

 短期間で処分を発表した関東学連は「反則行為の事実確認」のみを行ったのです。そのため、日大の第三者委員会が7月中に報告書を公表したのであれば、所要時間は適切と言えるでしょう。

 再発防止策が実施されるのは「その後」になりますから、効果が示されるのはどれだけ早くても8月以降になると見込まれます。

 「アメフト部の選手が行った反則行為」だけなら、秋のリーグ戦までに処分解除を得られる可能性はあります。しかし、「アメフト部に対するガバナンス」は大学(=学校法人)の人事に深く関係しており、前監督(や同調者)の影響力を完全に排除できなければ、再発防止策が講じられたとは認められないでしょう。

 

 スポーツマンシップに反する悪質な反則行為を指摘しなかったアメフト部の部員は無垢な被害者ではありません。

 反則行為に手を染めざるを得ない立場に追い込まれていた可能性が極めて高い選手には同情の余地がありますが、他の日大アメフト部の部員は疑惑の目を向けられている状況であることを自覚しなければなりません。

 「『来年秋のリーグ戦での復帰を目指す』の間違いではないのか」との批判を巻き起すような安易な発言は自重すべきです。それができないなら、メディアの前でのコメントはすべきでないと言えるのではないでしょうか。