政府与党の IR 法案:“極めて悪質な金融スキーム” になり得る『特定資金貸付業務』の内容を見直すことは必須
カジノを含む統合型リゾート(IR)の設立に向けた法案審議が国会で行われています。
ただ、法案にある『特定資金貸付業務』の内容を見直すことは不可欠と言えるでしょう。なぜなら、現状ではギャンブルで生活を破綻させる人を激増させる問題を含んだ内容となっているからです。
「依存症」は問題だが、依存症でなくても「生活破綻」は起きる場合がある
IR 法案については「ギャンブル依存症患者の存在」が反対派の主張の1つとなっていました。
依存症が発症すれば、日常生活を送ることは困難になります。ただ、依存症にならない状態であっても、カジノが原因で生活が破綻してしまうリスクがあるのです。
地獄へと通じる “悪魔のような金融スキーム” が IR 法案に含まれていることが問題と言えるでしょう。
具体的に指摘すると、『特定資金貸付業務』です。この制度を利用することで、カジノ利用者が大金を賭けることが可能になります。勝ち負けの確率が 50:50 であっても、2人に1人は負けてしまいます。
その結果、負けた人が借金地獄に陥ることは目に見えています。カジノで身を滅ぼす人が続出する前に懸念点に歯止めをかけることが政治の役割だと言えるはずです。
『特定資金貸付業務』は「ギャンブラーを誘惑する危険な制度」
『IR 法案』は「特定複合観光施設区域整備法案」という名称で国会に提出されています。内容については首相官邸のウェブサイトにアップされています。
カジノに対する規制は概要(PDF)で紹介されていますが、問題視する必要があるのは「特定金融業務(貸付け等)」と記された点です。
特定金融業務をカジノ施設が行うことで、利用者はカジノ施設から「カジノで使う掛け金」を借りることが可能になります。その運用形態に問題があるのです。ちなみに、要綱(PDF)では次のように定められています。
- 貸付の対象は日本国内に居住していない外国人またはカジノ管理委員会が定める金額以上を預け入れた人物
- 返済期間は最大2ヶ月まで
- 利息や手数料を加えた貸付は禁止
- 期日までの返済がない場合、年14.6%の割合で違約金請求が可能
- 債務を主たる債務とする保証契約は禁止
提出法案(PDF)では第85条で言及されている内容です。
懸念されるのは「無利子で “タネ銭” が手に入り、返済期限は(最大で)2ヶ月先」という部分です。「負けても、次で取り返す」というギャンブラー心理を刺激する制度ですし、『特定金融業務』は銀行法の適応外となっています。
そのため、危なっかしい制度であると言わざるを得ません。
消費者金融が「地獄行きのチケット」を用立ててくれる
『特定金融業務』を行うカジノ事業者からの貸付を受けるために必要な預け入れ額(=デポジット)はカジノ管理委員会が定めるとなっています。
どれだけの額になるかは不明ですが、金額による抑止策は効果が低いと思われます。なぜなら、「消費者金融で頭金を借り、カジノの『特定資金貸付』を使って軍資金を膨らませて勝負」という手法が存在するからです。
合法手段ですし、「貸し出し実績が増える」という成果を手にできる消費者金融はカジノ事業者の『特定金融業務』を歓迎することでしょう。また、取り立て業務の委託されれば、業績拡大に直結するのです。低金利の時代ですから、金融業は法案成立に前向きであると考えられます。
その一方で、“甘い悪魔のささやき” に乗せられて「天国 / 地獄行きのチケット」を買い、身を滅ぼす人が出てくることは否定できません。損害の範囲が自業自得であればマシかもしれませんが、現実には周囲に影響を及ぼしますので野放しにはできないと言えるでしょう。
返済期間が最大2ヶ月というのは長すぎです。「期日までに取り返せば良い」と深みに陥るリスクがある訳ですから、24時間など期日を可能なかぎり短くするよう働きかけるべきなのです。
「法案内容の修正」と「カジノ管理委員会への注文」の2点が重要
IR 法案で批判を行うなら、主張内容と対象を間違えてはなりません。的外れな主張は推進側を利する結果となるからです。
- 法案で明記された「返済期日の上限(現行は2ヶ月)」を短くするよう修正を要求
- カジノ管理委員会が設定する「デポジット(=預け入れ額)とレバレッジ(=貸し付け限度額)」に対する議論
まず、国会に提出済みの法案から「貸付金の返済期日に対する上限を引き下げる」という修正を勝ち取らなければなりません。「次は勝てる」という射幸心を強く煽りかねない内容となっているのですから、公明党や野党の出番であるはずです。
『特定資金貸付業務』の細かい内容は衆参両院の同意を得たカジノ管理委員会の委員長と4名の委員が決定するのですが、「デポジットとレバレッジの関係は事前に議論すべき」との主張はできるはずです。その上で、『射幸心を強く刺激しない割合』を先に提案すると抑止策になるでしょう。
カードの切り方次第で IR 法案に含まれている懸念点は大きく解消することが可能な段階なのです。“生真面目な自民党” に正面から法案修正を提示し、実績を勝ち取ることができる政党・政治家がいるのかを見分ける試金石になると言えるのではないでしょうか。