『商業的価値が低い状態の女子サッカー』で「競技人口の増加」を目指す FIFA のスタンスは間違いである

 AFP 通信によりますと、FIFA が「女子サッカー選手の数を倍増させたい」との目標に向け、具体的なプロジェクトに着手しているとのことです。

 ただ、優先順位の付け方を間違っているコメントをトップが残しており、先行きは良くないと言わざるを得ないでしょう。なぜなら、『商業的価値が低い状況』では経営に行き詰まることは時間の問題だからです。

 

 国際サッカー連盟(FIFA)は10日、女子サッカー選手の数を倍増させたいという考えを明かし、目標達成へ向けてすでに「具体的なプロジェクト」に着手していると述べた。

 FIFAはクラブチームや各国リーグのプロ化を進め、2026年までに女子選手の数を全世界で6000万人にまで増やすことを目指している。

 FIFAで女子サッカー部門の主任責任者を務めるサライ・バラマン(Sarai Bareman)氏は、「われわれが今最優先にしている目標は三つある。競技人口の増加、商業的価値の向上、そして土台作りだ」とAFPに語った。

 女子サッカーを世界中に普及させるためには「競技人口の増加」、「商業的価値の向上」、「競技環境の土台作り」が重要であることは間違いありません。

 しかし、これらの中にも優先度があるのです。この現実を無視したプロジェクトを進めても、思うような結果が出ないことは明らかだと言えるでしょう。

 

「競技人口を増やすことはそれほど難しくない」という現実

 「女子サッカーの競技人口を増やす」という課題を解決することはそれほど難しくはありません。なぜなら、かなり単純な解決策が存在するからです。

  1. FIFA 内で「男女平等」を叫び、男子W杯で得た収入(の一部)を女子サッカーの予算に回す
  2. 獲得した予算を「女子サッカー選手の登録数に応じて各協会に配分する」と宣言する

 欧米ではフェミニズムが盛んに盛り上がっていますので、その動きに便乗すれば、従来の予算額よりも増額を勝ち取れるでしょう。それで得た予算を各サッカー協会に「女子サッカーの選手数に応じて分配する」と発表すれば、競技人口は増やせるからです。

 資金力に余裕があるのは日本など一部のサッカー協会です。ほとんどの協会が資金難に苦しんでいる訳ですから、“見返り” がはっきりしていれば、競技人口の増加など難しいことではありません。

 

『商業的価値』が伴わなければ、「パトロン型スポーツ」になる

 プロやアマに関係なく、『商業的価値』が伴うことが競技人口を倍増させるための絶対条件です。この視点が FIFA に欠けていることは問題でしょう。

 「商業的価値は後から何とでもなる」と主張する人もいるでしょうが、これは間違いです。なぜなら、中国のスーパーリーグが証明してしまっているからです。

 中国は “サッカー好き” で知られる習近平総書記に気に入られるため、大富豪が挙ってサッカークラブに投資しています。それにより、『競技人口』は爆発的に増え、『土台作り』も急速に進みました。また、欧州のビッグクラブは中国にサッカースクールも開校しているのです。

 では、「中国スーパーリーグの『商業的価値』は高くなった」と言えるでしょうか。残念ながら、現状での答えは「NO」と言わざるを得ないでしょう。観客動員数が少なく、国外資本からのスポンサーも限られている状況が商業的魅力の低さを示しているからです。

 つまり、中国サッカーの現状は中国人大富豪という “パトロン” に依存しているモデルなのです。『商業的価値』が低ければ、パトロンに依存せざるを得ません。投資家は世界中で存在しますが、パトロンはそうではないことを自覚する必要があると言えるでしょう。

 

「女子サッカーというコンテンツが持つ魅力度が低い」という現実にも目を向ける必要がある

 また、女子サッカーが持つコンテンツの魅力度が低いという問題にも対処しなければなりません。日本のなでしこジャパンが全国高校サッカー選手権大会に出場するチームに完敗(1人少ない相手に 2-0 で敗戦)するレベルなのですから、現状ではスポンサー受けは良くないでしょう。

 この現実に対しては「男子と女子は体力差が違う」との反論が定番ですが、ビジネスや興行として成り立たせたいのであれば、単なる言い訳に過ぎません。なぜなら、以下の項目のどちらかを満たせば、コンテンツとしての魅力度が出るからです。

  • 男子のトッププロと遜色ない数値的パフォーマンスを示せる
  • 一般人が「すごい」と思える身体能力を示せる

 例えば、大坂なおみ選手などの女子テニス選手(の一部)は男子のトップ選手と遜色ないサーブスピードを持っています。また、女子バレーボール選手の跳躍力は一般人目線で「すごい」と言えるものでしょう。こうした項目が多いほど、コンテンツとしての魅力度は高くなります。

 しかし、残念なことに女子サッカーにはセールスポイントとなり得る部分があまり見当たらないのです。

 そうなると、損失を出す見込みが高い分野に投資をすれば、背任行為となってしまう恐れが出てきます。また、「女子サッカーに投資する前に自社の女性社員が置かれた境遇を見直すべき」との批判を受けることも考えられるだけに、スポンサーに名乗りを上げることは簡単ではないと言えるでしょう。

 

 まずは女子サッカーに独立採算制を導入すべきです。男子のW杯で FIFA が稼いだスポンサー収入を女子サッカーに転用できる状態であるから、一部の女子選手からの “勘違い要求” を行い、余計なトラブルを招く結果になっているのです。

 身の丈を把握した上で現状に適した成長プランを実施し、「コンテンツの魅力度を高める」ことを最優先に取り組むことが何よりも重要と言えるのではないでしょうか。