ホンダがイギリスの工場閉鎖方針を発表、ブリグジットによる影響が本格的に現れ始める

 NHK によりますと、ホンダがイギリス南部スウィンドンで操業中の生産工場を2021年中に閉鎖する方針を発表したとのことです。

 ブリグジットが決定した以上、ヨーロッパ向けの商品が持つ競争力は失われることは経営的なデメリットに他なりません。「イギリス国内向けの生産工場」でない限り、生産体制の見直し対象になることは避けられないと言えるでしょう。

 

 ホンダは2021年中にイギリスの南部、スウィンドンにある工場での生産を終了し、閉鎖する方針を決め労働組合との協議を始めました。

 工場で働くおよそ3500人の従業員については、支援を行っていくとしています。

 この工場はホンダのヨーロッパ唯一の自動車の生産拠点で、年間16万台の生産台数のうち、およそ35%がヨーロッパ向けで、そのほかはアメリカや日本などに輸出されています。

 まず、ホンダのように世界展開をしている企業は「自社の利益が最大となる生産体制の構築」を行っています。

 世界情勢や販売傾向を踏まえた上で「どの工場でどれだけ生産するか」を合理的に判断することが一般的です。したがって、ブリグジットという経営環境が大きく変わる要素は一定の影響を与えたことは否定できないと言えるでしょう。

 

イギリス国内向けではなく、「ヨーロッパ向け」が主力なら、見直しの対象になるのは当然

 ホンダがスウィンドンの工場を閉鎖することを決めた理由は「ヨーロッパ向け」が主力になっているからでしょう。なぜなら、ブリグジットが決定したイギリスに「ヨーロッパ向けの生産工場」を置くメリットがないからです。

 その理由は関税です。イギリスからヨーロッパ諸国に自動車を輸出した場合、ブレグジットの内容に応じて税率が次のように変化することが理由です。

  • ハードブレグジット(= 合意なき離脱):10%
  • ソフトブレグジット:今後の交渉次第

 ハードブレグジットの場合、イギリスから欧州への自動車輸出にかかる関税は 10% です。ただ、合意ある離脱(= ソフトブレグジット)を選択しても、通商交渉は期限である2020年までにまとまるかは不透明なのです。

 これを認識しているから、ホンダは「2021年中の撤退」を決定したと言えるでしょう。

 

ヨーロッパに輸出するなら、日本国内から輸出する方が合理的

 次に、スウィンドンの工場で生産される自動車の大半がイギリス国内向けであったなら、「撤退」を視野に入れる経営者はいないでしょう。なぜなら、市場に近い工場で生産した方が効率的だからです。

 しかし、実際にはヨーロッパ向けが主力となり、メインの市場での競争力が失われる大きな原因が2つ存在しているのです。1つは「ブレグジット」ですが、もう1つは「日欧 EPA (= 日本と EU の経済連携協定)」です。

 2019年2月に発効した『日欧 EPA』では日本からヨーロッパへの自動車輸出時関税が段階的に引き下げられ、8年目には関税が完全撤廃されることが決定しています。従来は 10% の関税でしたから、年 1.25% の引き下げが行われることと同じです。

 つまり、日本国内の生産工場は EU 市場での競争力が年々増すことになるのです。「どういう状況になるか読めないイギリスの工場」を重点的に稼働させるメリットは見当たらないのですから、撤退が視野に入ることは当然と言わざるを得ないでしょう。

 

 企業はビジネスを営んでいるのです。生産性が悪化し、損失を出し続けるような生産工場を維持する意味はありません。仮に、ソフトブレグジットで決着していたとしても、ホンダは生産の効率化を理由に「2021年中の工場閉鎖」を表明していたことでしょう。

 「人件費の高い国の生産工場で儲けの大きい SUV を作って輸出する」という形態は危険なシグナルなのです。「SUV が売れるの市場を持った国」や「人件費の安い国」の工場で生産しない理由を考える必要があります。

 ブリグジットはイギリスからの撤退を視野に入れていた企業の背中を押すには十分すぎる出来事だったと言えるでしょう。ホンダの撤退表明はあくまでも「氷山の一角」と言えるのではないでしょうか。