イギリスの EU 離脱交渉:メイ首相が EU 側にも譲歩を呼びかけるも混乱回避の兆しは見えず、離脱期限が近づく

 3月末に期限を迎えるイギリスの EU 離脱交渉ですが、「イギリス・メイ首相が EU 側にも譲歩を要求した」と NHK が伝えています。

 イギリス議会では『離脱協定案』が否決されたのですから、現行案がイギリス優位に改善されない限り、議会で認められることはないでしょう。EU が “合意可能な案” を要求したところで、イギリス議会が承認しなければハードブレグジットになるのです。

 事態は膠着したままですから、その可能性が徐々に高まっていると言わざるを得ないでしょう。

 

 イギリスのメイ首相は、1月に議会で否決された「離脱協定案」について、EUに修正を求めたうえで来週12日に議会にかける方針を示していますが、肝心のEUとの協議は行き詰まりを見せています。

 (中略)

 EUに対しても「大きな選択を迫られているのはイギリスの議員だけでなくEUも同じだ。協定案を議会が否決すれば大変な危機が訪れる」と述べ、混乱を回避するためEU側にも譲歩を呼びかけました。

 EUは、8日中にイギリス政府に対して、合意可能な案を示すよう求めていますが、打開策が見いだせるかどうかは不透明です。

 

3月29日の離脱期限までに残された時間は少ない

 イギリスの EU 離脱期限は3月29日です。この日までに『離脱協定』がまとまらなければ、ハードブレグジットとなります。

 現状は『離脱協定案』がイギリス議会で否決され、イギリス政府が EU に「離脱協定案の修正」を求めている状況です。しかし、イギリス政府と EU による協議は「不調」と言わざるを得ない状況であり、議会が支持するような『新しい離脱協定案』が出される可能性は低いと言えるでしょう。

 そのため、12日(火)に議会に提示される『離脱協定案』は「現行案とほとんど同じ内容」であることが濃厚で、再び否決される公算が高いと考えられます。

 この現実を認識しているから、メイ首相は “EU 側にも” 譲歩を要求する発言をしたのでしょう。「具体的な方向性も固まらないまま、離脱期限まで残り2週間を切る」という状況が現実味を帯びることになると予想されます。

 

トヨタもイギリス工場での生産からの撤退を視野に入れる

 先日、ホンダがイギリス工場での生産を中止することを決めましたが、トヨタも「イギリスでの生産に競争力がなくなるなら撤退の可能性もある」と言及しています。

 トヨタ自動車は6日、英国の欧州連合(EU)離脱が「合意なき離脱」になった場合、2023年以降に英国の生産から撤退する可能性もあることを明らかにした。

 (中略)

 ファンゼイル氏は「撤退は望んでいない。何も決まっていない」としたうえで「英国生産の競争力がなくなれば勝ち残れない」と強調。英政府に無関税やモノの自由な移動の維持を改めて求めた。

 日経新聞によりますと、2019年1月からヨーロッパ向けのカローラを生産しているとのこと。仮に、関税が(ハードブレグジットで) 10% になるなら、競争力は大きく失われることになります。

 したがって、「カローラの次期モデルが投入される予定である2023年以降の生産は現時点では約束できない」ということが本音と言えるでしょう。

 『自由な移動』ができても、移動時間が現状よりも要することになれば、競争力は低下します。重要視されているのは「スムーズな通関」と「無関税」であって、『モノの自由な移動』は本筋からズレていると言えるはずです。

 

「離脱協定案をまとめる」以外の選択肢があるため、ソフトブレグジットに奔走する動機が少ない

 イギリスの EU 離脱交渉が不調になるのは「離脱協定案をまとめるしか選択肢がない」と当事者が考えていないからです。

 なぜなら、両者が「まとまらなかった時に主張できる正当な根拠」を持っているからです。イギリス側は「移動が自由なら離脱前と同じ」と言えますし、EU 側は「無関税なら離脱前と同じ」と言えるからです。

 イギリスは「EU 市民が自由に流入できること」に制限を設けることに対して譲歩は選択肢にないでしょう。また、イギリス沿岸の漁場で EU 加盟国の漁船による操業が不可能になるのですから、「ハードブレグジットでも問題ない」と考える国民はいるのです。

 逆に、EU 側も加盟国や国民は「ハードブレグジットによる痛み」をダイレクトに受けますが、交渉の実務者である “EU 官僚” が実害を被ることはないのです。有権者からの突き上げを受ける立場にないのですから、強硬姿勢を貫き通すことでしょう。

 その結果、3月末の離脱期限の直前まで事態が動かず、ハードブレグジットの可能性が現実を帯びたままの状態で時間だけが経過することになると言えるのではないでしょうか。