イギリス議会が『EU離脱協定案』を大差で否決、“ハード・ブレグジット” の可能性が高まる

 NHK によりますと、EU からの離脱協定案を審議していたイギリス議会が採決を行い、反対多数で否決されたとのことです。

 これにより、『合意なき離脱(= ハード・ブレグジット)』となる可能性が高くなったと言えるでしょう。EU 側は今回の離脱協定案から譲歩はしないと表明しているため、両者が離脱の期限である今年3月までに “新たな落とし所” を探るとは考えにくいからです。

 

 イギリス議会は、去年11月、メイ政権がEUと合意した、離脱の条件を定めた協定案について、15日夜、日本時間の16日朝、採決を行い、賛成202票、反対432票の反対多数で否決しました。

 離脱協定案の否決を受け、政府は3日以内に代替案を議会に示す必要があります。

 メイ首相はEUと改めて協議をし、何らかの譲歩を得て再度、議会に諮るものとみられていますが、議員が納得できるだけの譲歩を得るのは難しい情勢です。

 『審議されていた離脱協定案』が議会で否決されたのですから、『代替案』を模索する必要があります。

 ただ、イギリス国内が納得する代替案を見出せたとしても、それを EU と合意しなければならないのです。そのため、今後の先行きは「不透明」と言わざるを得ないでしょう。

 

どの『代替案』を選んでも、一筋縄に行きそうにないブレグジットの現状

 離脱協定案が否決されたため、イギリス政府は『代替案』をイギリス議会に提示することが必要になりました。ただ、いずれの『代替案』を選択しても、反発を受けて一筋縄では行かないでしょう。

  1. 『協定案』に修正を加えて、議会に再提出
    → 修正可能項目が限られるため、再否決の可能性大
  2. EU との『協定案』についての再交渉を実施
    → EU が現行の『協定案』から譲歩する見込みは少
  3. 「EU 離脱の是非を問う国民投票(2度目)」を実施
    → 離脱賛成派の反発を招く上、時間的にも厳しい

 『代替案』として考えられる選択肢は「提案することは可能でも、実現することは困難」というものばかりです。そのため、どの提案が行われることになったとしても、厳しい局面が待っていると言わざるを得ません。

 「合意なき離脱(= ハード・ブレグジット)」が現実味を帯び始めたと言えるでしょう。

 

「ハード・ブレグジットを避けたい」との思惑があるなら、チキンレースが展開されることになるだろう

 今後の展開で大きな鍵を握るのは「ハード・ブレグジットは避けたいと考える議員がどれだけいるか」という点です。

 「『合意なき離脱』となれば、経済面などで大きな影響を被る」と考える議員は態度を軟化させる可能性があります。したがって、その人数がどのぐらいかが鍵となるでしょう。

 つまり、イギリスと EU の間で「チキンレース」が展開されている状況なのです。

 『合意なき離脱』では “イギリスが被る影響” にだけ焦点が当たる傾向にありますが、EU 側も無傷では済みません。「イギリスからの離脱金」が得られない上、「在英 EU 市民の居住資格」も消滅するからです。

 イギリスの社会保障で生活している EU 市民は間違いなく EU 域内に送り返されることになるでしょうから、“思わぬ余波” が生じる可能性は念頭に置いておく必要はあると言えるでしょう。

 

ハード・ブレグジットとなった場合、イギリスに「TPP に加入」を打診する価値はあるのでは?

 日本としては「イギリスは EU に留まり続けること」が経済面で最も日本の国益に沿う形です。ただ、イギリスと EU との関係性を決めるのは当事者であり、日本の意向に沿った判断をすることはないでしょう。

 そのため、ハード・ブレグジットという “日本経済に最も大きな影響が出る恐れがある事態” が生じた際の対処策を準備しておくことが重要になるはずです。

 抜本的な解決策は「イギリスと EU の経済協定が締結されること」でしょう。しかし、条件が妥結するまでには相当の時間が要することになると考えられます。

 その場合は “一時的な緩和策” として、「イギリスに TPP への加入」を呼びかけるだけの価値はあるはずです。

 TPP は「関税を撤廃した経済圏」であり、「統一の基準・企画」を要求される EU とは異なります。日本は EU と EPA (= 経済協定)を締結していますので、イギリスが得意の “外交戦術” を駆使できれば、TPP と EPA を使った三角貿易で離脱による影響を限定できる可能性もあるからです。

 

 日本経済にも影響が出る恐れが強いイギリスの EU 離脱交渉がどのような結末を迎えるのか。イギリス議会での動きにも注目しておく必要があると言えるのではないでしょうか。