イギリス政府と EU が離脱協定案の合意に達し、離脱はイギリス議会の承認次第となる
NHK によりますと、「イギリスの EU 離脱」を巡る協定交渉が首脳会議で合意に達し、協定案が正式に承認されたとのことです。
EU 議会は協定案を承認することは確実視されていますが、イギリス議会で離脱協定案が承認されるかは不透明です。そのため、協定案そのものが “ご破算” になる可能性も残されています。
「イギリス側が納得する協定内容であるか」が大きな分かれ目となるでしょう。
イギリスの離脱をめぐってEU=ヨーロッパ連合は臨時の首脳会議を開き、イギリスと合意した離脱協定案などを正式に承認しました。協定案は今後、イギリスとEUの議会に諮られることになりますが、イギリスでは合意の内容に対する不満が根強く、議会が承認するかは依然不透明です。
(中略)
585ページに上る離脱協定は、イギリスとEUのそれぞれの国で暮らす市民に離脱前と同じ権利を保障することや、イギリスがこれまでに約束していたEU予算の分担金などを清算金としてEUに支払うことが盛り込まれています。
また、急激な変化を避けるために、離脱する来年3月29日から2020年末まで移行期間を設け、この間はこれまでどおり、人やモノの移動の自由を守ることなどを確認しています。
問題を先送りしたアイルランドと北アイルランドの国境管理については、移行期間中に厳しい国境管理を避けるための方策が見つからない場合には、イギリス全土が事実上、関税同盟に残るなどとしています。
「何のための離脱か」というイギリス国内の声を納得させられるのか
イギリスの EU 離脱が成立するかが不透明なのは「何のための離脱か」が明確に示すことができないからでしょう。なぜなら、良い条件とは言えないからです。
- イギリス国内の EU 市民は離脱前と同じ権利が保証される
- EU 予算の分担金を清算費として支払う
- 2020年末まで『移行期間』を設ける
- 離脱は2019年3月29日
- アイルランドと北アイルランドの国境管理対策を最優先に実施
- 有効策が確立されなければ、イギリス全土は一時的に EU との関税同盟に残留
EU 側は「実質的な満額回答」を手にしていますが、イギリス側は「メリットが見通せない状況」となっています。そのため、議会で『離脱協定案』に反対票を投じる議員が多く発生することでしょう。
その結果、“ソフトランディング” ではなく “ハードランディング” となる可能性が現実的に残されているのです。
イギリス議会が離脱協定案に「NO」という可能性はある
イギリス議会は『離脱協定案』に NO という可能性は十分に残されています。なぜなら、EU から確実に離脱できるかが不透明だからです。
『離脱協定案』に沿って離脱を進めようとすると、「地続きであるアイルランドと北アイルランドの国境管理を確立させること」が必須です。ただ、肝心の管理方法が棚上げ状態であり、離脱に不可欠な条件を満たす見通しが立っていないのです。
仮に、アイルランドと北アイルランドの国境管理が確立しなければ、イギリス全土は EU との関税同盟に残留します。これは「現状維持」と同じであり、離脱に向けた動きはゼロ同然です。
イギリスが EU 離脱に傾いたのは「東欧の EU 加盟国の国籍保有者がイギリスの社会保障にタダ乗りしたこと」が大きな理由です。また、自称・難民などの “移民” が現在もフランスからユーロトンネルを使った渡英を画策している状況であり、この状況が維持されることを歓迎する動きはないと言えるでしょう。
「ハードランディングは起こり得ない」と決め付けている EU が “返り血” を浴びる可能性も
EU 側は「ハードランディング(= 合意なき離脱)は起こり得ない」と決め付けているのでしょう。確かに可能性は低いと考えれますが、ゼロではないだけに対策を講じておくことは必須です。
ハードランディングとなると、EU は「イギリスからの拠出金」を得ることは不可能となり、予算の見直しは避けられません。また、イギリス国内での EU 市民の権利が保証されるかも怪しくなります。
つまり、EU は「予算拠出国を失った上、イギリスから “EU 市民の失業者” を域内に送り返される」というリスクを抱えているのです。
彼らは EU 市民ですから、EU 加盟国で生活する権利を有しています。その権利を最大限活用し、社会保障制度に “タダ乗り” をしていたことが世間に不満を蓄積する原因の1つとなっていました。
彼らがイギリスから追い出されたことで、他の豊かな EU 加盟国で同様の問題が起きる可能性は十分にあると言えるでしょう。
「イギリス経済の低迷」を示唆することで譲歩を迫った EU の交渉は現状では成果を残しています。しかし、イギリス議会がハードランディングを選択した場合、EU が「社会保障の負担増加」という大きな重荷を背負うことを強いられるリスクがあるのです。
イギリス議会がどのような決断を下すのかに注目と言えるのではないでしょうか。