イギリスのEU離脱問題、期限を半年先の10月31日まで先送りにする

 イギリス BBC によりますと、EU の首脳会議でイギリスの離脱期限を10月31日まで延長することで合意に達したとのことです。

 これにより、当面のハードブレグジットは回避されましたが、実態は単なる「先送り」に過ぎません。離脱に向けた展望が開けた訳ではないため、この点には留意する必要があると言えるでしょう。

 

 欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長(大統領に相当)は11日未明、ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)について、イギリスと欧州連合(EU)が10月31日までの「柔軟な延長」で合意したと発表した。

 6月に「進捗度合いのチェック」が設けられているとのことですが、当初の期限からは大幅に先送りされたと言えるでしょう。

 ただ、イギリス国内では離脱に向けた筋道が全くと言っていいほど何も決まっていないのです。そのため、延期したところで離脱に向けた展望が開けたとは言えない現実を踏まえておく必要があります。

 

ハードブレグジットが当面回避されただけ

 イギリスの EU 離脱期限は「2019年3月末」でした。それが「4月」に延期され、今回の決定で「10月31日」に再延期となったのです。

 期限を何度も延期するほど、離脱交渉は “茶番” の色合いが強くなります。「経済に悪影響を与えない」という観点からは『EU 残留』が理想なのですが、その選択肢はないとイギリス議会が示しているため、交渉にピリオドを打つ必要があるのです。

 そのためには期日を明確に定めることが重要です。しかし、ハードブレグジットの引き金を引くという重荷を嫌う EU 側が厳格な態度を示せていないため、結論が先送りになっている現状は否定できないと言えるでしょう。

 

離脱期限は半年延長されたものの、“ソフトブレグジット(= 合意ある離脱)の実現に向けた道” が存在しない

 メイ首相(イギリス)は「6月までの離脱を目指す」との意向を示していますが、その可能性は極めて低いでしょう。なぜなら、メイ首相が提出した『離脱協定案』を議会が承認する以外は実現不可能な日程だからです。

 しかし、メイ首相による『離脱協定案』は議会にすべて否決されており、賛成が過半数を上回ることは期待できません。

 EU 側が『協定案』の内容についての再交渉をするのであれば、その可能性は高くなります。ただ、マクロン大統領(フランス)のように「離脱期限の延長」を歓迎しない首脳もいる訳ですから、EU が譲歩する見通しは低いと考えられます。

 つまり、事態が大きく動く要素は何もないのです。市場や外部がイギリスの EU 離脱問題に懸念を示したところで、当事者が完全な膠着状態に陥っているのです。動きのないまま、新たに設定された離脱期限を迎えることになるでしょう。

 

2019年7月末に予定されている参院選への影響が限定的になるのでは?

 イギリスの EU 離脱が先送りになったことによる日本への影響は「参議院選挙」になるでしょう。離脱が実施されると経済に “マイナス影響” が出ることは避けられず、与党(= 自民党)にとっては逆風になると考えられるからです。

 逆風の発生が「10月末まで先送り」となれば、ネガティブな要素が選挙前(や選挙期間中)に発生することを回避することになる訳ですから、この点を歓迎する政治家は多いと思われます。

 とは言え、ブレグジットがいつ発生するのかに関係なく、経済政策が重要であることに変わりはありません。「社会保障を充実させる」と宣言したところで、「社会保障の原資となる税収をどう確保し続けるのか」を示せなければ予算の無駄遣いが増えるだけです。

 現状は「ハードブレグジットまでの時間が巻き戻されただけ」なのです。イギリス国内で離脱に向けた展望が見えておらず、再び混乱が起きることを前提にした対応策を準備しておく必要があると言えるのではないでしょうか。